Magic Green!!!本編 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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02.

正午過ぎ。午前中バイトに行っていたレオナルドが戻ってきて、ザップ、ツェッドの3人でわちゃわちゃ楽しそうにしているのを、アユは給湯室のドアについた丸窓から覗いていた。

「クラウスさんとギルベルトさんは偉い人の所、K.Kさんはさっき単独任務に行ってた。チェインさんは……今日見てないな」

アユの自室には、キッチンがない。ただでさえ狭かった物置に、トイレと風呂と洗面所を取り付けている時点で、アユ以外の人間が部屋に入れるほどの隙間は殆ど消滅している。キッチン代わりに給湯室の冷蔵庫とオーブン付きの電子レンジ、IHを使ってもいいというお許しを得ているため、アユはいつもここで三食をとっていた。

(お昼、何にしよう……冷蔵庫に昨日のパンが残ってるよね)

数日に一度、アユは主にレオナルドやツェッド、チェインと共に近場のスーパーに買い出しに行っていた。メンバーが各々食べたいものや頼まれたものを買い、ついでにアユも日々の食料を調達している。アユの主食は今や三食ともパンかパスタで、米がとても恋しい時期に入っていた。アメリカに渡った日本人がどんどん太っていくのも頷ける。

「贅沢は言ってられないけどねーっと……ん!?」

冷蔵庫を開けて、そこにあるはずのフランスパンが無いことに気付いたアユは、真っ先にザップの所へ向かった。

「ザップさん! 私のフランスパン食べましたね!? あっコラ! 狸寝入りしない!」
「っちくしょ〜なんでバレたんだ……」

アユはグルズヘリムなのであって。建物全般や、家具とある程度の意思疎通をはかれる。冷蔵庫は、ザップの名前を連呼していた。

「バレます! グルズヘリム舐めちゃダメですよ!?」
「うっわSS先輩うっわ……サイテーっすね!」
「誰に対しても真性クズですね」

レオやツェッドからも容赦ない言葉を浴びせられ、ザップはうざったそうに耳を塞いだ。

「うるせぇな……フランスパンが俺に食べて欲しいって言ったんだよ、だから仕方なくな」
「フランスパンはそんな事言いませんから! ってあぁ、ということは私、お昼抜き……」

アユは床にへたりこんだ。もう少し買いだめしておくべきだったな、今度からはそうしよう。と心に決めて顔を上げた目線の先に、レオナルドがいた。

「アユ、よかったら僕らとランチはどう? 丁度今から行くところなんだけど。ザップさんが奢ってくれると思うし」
「え?」
「あ!? 何で俺が奢ることになってんだよ陰毛!」
「だーもうそのあだ名やめろよ!! アンタがアユの昼飯食ったのがいけないんでしょ!」

ぎゃいぎゃいと喚き合う2人をじっと見ていると、なんだか笑えてくるからいけない。アユは幸せそうな顔をしていたらしく、ツェッドが「申し訳ないですけど、兄弟子はアユさんに奢れる程のお金は持っていません」と声をかけてきた。元よりこの人に奢ってもらうつもりはなかったから、いやいや、とアユは首を振った。

「なんか、3人ともいつもすごく仲良さそうにしてたのが羨ましかったんで……お邪魔でないなら、ご一緒してもいいですか?」
「勿論です。決してこの兄弟子と仲がいい訳ではありませんが」

Me tooだこのやろう魚類! とレオナルドを羽交い締めにしながらクズが叫んだ。アユは一応、と思い、スティーブンに許可を取りに行った。

「スティーブンさん、」
「……ああ、昼食か? 行ってくるといい。時間内に帰っくるように」

彼は書類に目を通している真っ最中で、アユが声をかけても顔を上げることなく答えただけだった。素っ気なくされ続けると、原因にあれこれ思いをめぐらすよりも、これからも共に協力していくべき上司と部下としての距離を縮める事の方が先決だと考えるようになる。アユはスティーブンにもう一度話しかけた。

「あの、スティーブンさん、何か買ってきましょうか?サブウェイとか……」

いらぬ配慮、ありがた迷惑、お節介……そこら辺の言葉がぽんぽんと頭上を飛んだが、口に出してしまったのだから仕方がない。スティーブンはようやく顔を上げて、ちょっとだけアユと目を合わせた。アユの背後でじゃれあっていたザップが、「やっべ」と腕で縛り上げていたレオナルドを床に投げ捨て、テーブルの上に置いてあったメモ帳とペンをひっつかんだ。

「……じゃあ」

フットロングターキーブレストウィートホースラディッシュソースホットペッパーオニオントマトピクルス多めレタスピーマンオリーブ少なめクリームタイプチーズアボガドダブルミートをトーストで

「……?」
「サブウェイ、買ってきてくれるんだろう?」

よろしく。

そう言ってスティーブンは、約半月ぶりにアユに笑顔を向けた。何故か漂い出した冷気に、レオとツェッドは縮み上がってそそくさと扉の外へ出ていく。アユはザップにフードを掴まれて、あれよあれよと言う間に執務室を後にした。
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