Magic Green!!!本編 | ナノ
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04 Run!Lunch!!Magic!!!

01.
アユが”ライブラ”にやってきて、はや半月。生活環境の変化に慣れやすいというか、単に図太いというか。彼女はそれなりに逞しくHLの異常な日常を乗り切っていた。

「ザップさん! 出てって下さい! 結界を張る時間です!」
「あ”〜? ンだとチビ。この俺様に楯突こうってのか」
「目眩、嘔吐、発熱、失神……エトセトラエトセトラ……」
「だー!! あーあーあーわーったよ!!」

ザップとは、この程度の会話(?)ならぽんぽんと交わせるようになっている。アユは毎日朝10時に基本型、メンバーが出払っている時に高度特殊型、メンバーが帰宅し、ツェッドが水槽に入ったのを確認してから、寝る前に最終確認と補助型、という風に、1日に2、3回程度事務所に結界を張り続けている。2日目に痛い目を見たライブラメンバーは、それ以降はアユの指示に従って、結界を張る朝10時には大人しく事務所の外に出ているようになっていた。K.Kと、ザップを除いて。

「ねーねーアユっち? どぉぉぉしてもダメなのかしら?」
「ダメなものはダメです。ごめんなさい、いつも良くして貰ってるのに」

K.Kは例のあの日非番だったため、直接アユが結界を張るところを一度も目にしていないのだ。一度だけ、という言葉を何度も繰り返すK.Kを、アユは普段可愛がってもらっている分、心を鬼にして外に無理矢理押し出していた。

「よぉチビ。この俺を脅しで動かせんのはお前だけだぞ。誇りに思いたまえ」
「はいはいわかりましたメチャクチャウレシイデスコーエーダナー」

1週間、いや3日でザップが如何にクズであるかということを理解したアユは、彼には他のメンバーよりも少しきつめに接している。レオナルドほどの口汚い罵り合いはしないが。

「あ?全く感情がこもってねぇな〜? まな板すぎて心も冷えきっ」
「ザップ、出ろ」
「ウィッス」

ザップの容赦ないセクハラ発言にアユがドン引きする間もなく、スティーブンの絶対零度ボイスが事務所に響き渡った。クズを脅しで動かせる人はもう一人いたようだ。

「すみませんスティーブンさん、5分で終わらせますね」

ザップを蹴り出して最後に事務所の扉を閉めようとしたスティーブンに、アユは申し訳なさそうに言った。

「いいや、構わない」

スティーブンはさっと目をそらして、すぐにバタンと扉を閉めた。

(あ、まただ)

初日と2日目の途中までは何だかいい雰囲気で会話出来ていたのだが、それからは何故か、スティーブンはアユを避けるようになっている。と、アユ自身は思っていた。

(たった2日で、優しい人だと決めつけたのは違ったかな。というかあれは、上司から新人への配慮って感じだったのかも)

逆に今の事務的な態度の方が、普通なのだろう。普段の仕事ぶりを観察していれば、彼がどれだけ大量の業務にまみれているのかはアユにも大体わかる。他のメンバーへの対応と、アユ自身への対応にも、さほど相違はなさそうだ。強いて違いをあげるなら、さっきみたいにすぐ目をそらされたり、たわいない雑談が無かったり、コーヒーをついだ時、礼は言っても笑いかけてはくれなかったり……

(いやいやいや避けられてるよね!? ていうか嫌われてるよね!?)

チョークでテキパキと魔法陣をかきながら、アユはブンブンと頭を振った。嫌われる要素は、ありすぎて数えられない。そもそもグルズヘリムというお荷物な存在を、利害関係が一致したというだけで招き入れている時点で! 双方に対等なメリット、デメリットがあるだけでは足りない、ライブラに多くメリットが必要なはずだ、とアユは思う。自分の力というのはそれほどまでに彼等にとっては脅威になるものなのだ。さらに言えば、アユは文化の違う日本人で、女で、自分で思うのも何だがカタブツで、チビで、未成年で……誤って誘拐でもされようものなら、シャミアニードとライブラのつい先日からようやく築かれ始めた信頼関係は崩壊しかねない。秘密結社の副官ともあろう上司が、常にこのチビの為の監視と保護と護衛に頭を捻らねばならないのだと思うと、嫌われても仕方ないと思えるくらい、可哀想でならないのだ。

(面倒なことだけは起こさないようにしよう。そして辛うじて認めてもらってるこの力も、毎日120%! 放出しなきゃね)

避けられていようが何だろうが、アユはここを離れるわけにはいかないし、シャミアニードとライブラの為にも、果ては世界の均衡を保つ為にも、唯一の長所とも言っていいこの”力”を、毎日存分に発揮するしかない。そして、制御するしかないのだ。

「よし!」

悶々としながらでも完璧に魔法陣をかききった自分を2秒間だけ褒めて、アユは瞳を閉じた。
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