Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
02.
HL近郊の、”関門”に最も近い国際空港にて。だだっ広いエントランスで、どこからどう見ても悪目立ちしているのは、銀髪細身褐色高身長…と特徴を上げればきりがないほどのイケメン、ザップ・レンフロであった。だがしかし度し難いクズ。やっていることは、美女探しと金拾いとナンパである。

「クズなのはHL内だけにしてくださいよ、SS先輩……」

そう力なくツッコミを入れるのは、レオナルド・ウォッチである。彼はげっそりとため息をつきながら、この数時間の最悪さを思い出していた。
ザップのランブレッタを運転させられ、空港に向かうという任務があるにも関わらずサブウェイに寄りたいと駄々をこねるクズ先輩を軽くあしらった瞬間。イタリアの古参マフィア同士のちょっとした抗争(といっても1ブロック半壊する程の)に巻き込まれ、待ち合わせの時刻を大幅にロスしてお目当ての空港に到着してしまった。そして予想通り、ランブレッタを降りるや否やクズはナンパの妖精と化し…
夏休み真っ只中ということもあってHL観光にとやってきた溢れんばかりの人混みの中に放り出された可哀想なレオナルド少年。しかしこのままどんよりしていても仕方ない、と自分の唯一の能力であると言ってもいい青い目を光らせて、お目当ての少女を探し出すべく辺りを見回した。

「これくらいの不幸なら想定内だし、まあ」

ちょっと早く見つけてみたい気もするのだ。ていうかもう既に約束の時間に間に合ってないし。

「お〜陰毛〜! 見つけたら報告よろしく頼むぜ! 俺ちっとこのネーチャンと遊んでくっから」
「クズも休み休みにしろっつってんでしょ! 馬鹿か! ってあ!!!」

義眼が事前に渡されていた写真に写る少女と全く同じオーラを見つけ出し、レオは見失うものかと人混みを掻き分けてオーラの光る方へ走り出した。

「っおい! レオ! ……っあ〜わりーネーチャン、また今度な」

チッ、と軽く舌打ちしてから、今度はザップがレオを見失うまいと大股で追いかけ始める。ただでさえチビなんだから、はぐれて迷子センターで呼び出し食らって、恥ずかしい思いすんのはテメーだぞクソ陰毛! と心の中で盛大に叫び、なんとかレオナルドに追いついた。何のかのと言っても、やはり後輩を心配しているのである。クズだが。

「オメーよー。チビで糸目のクセに、はぐれちまったら……」
「いましたよ、ザップさん。てか糸目関係ねぇだろ」

レオナルドが指さした先の紺のベンチに、栗色の髪をふわっとおろした小さな少女が座っていた。赤いトランクと、それより大きい紙袋を沢山積み上げて、なにやらスマホを覗き込んでいる。

「おーおー。ありゃお前よりちいせぇぞ、よかったなチビ陰毛」
「年下の女の子よりでかくてもさほど嬉しくねぇっすよ。ほら声かけましょ…ってまずい!」

レオが叫ぶか叫ばないかのうちに、彼女のものであろう大量の紙袋が、偶然そこを通りかかったかのような顔をしている男によって鷲掴みにされ、持ち去られた。一拍遅れて、あ、と声を上げた少女は、レオが視界の端から走ってくるのにも気付かずに、紙袋を持って小走りに逃げていく男の後を追っていった。

「ちょ、え!? トランク! トランクここに置いてるのに!」
「馬鹿レオ、お前ここにいてトランク見張ってろ!」

俺が行く、と走り出そうとしたザップが、急に足を止めて、目眩に襲われたかのように一瞬よろめいた。ん? とレオがザップの向こうに見える少女の後ろ姿を捉えた時には、先ほどの男はどこかへ逃げたのだろう、投げ出された紙袋の中身がばらばらと床に散らばっていた。

あれ、何が起こったんだろう…とぼんやり突っ立っている間に、少女はしゃがんで紙袋の中身をもう一度詰め直し、もう、と少し頬を膨らませて立ち上がった。

「皆さんへのお土産なんだから、勝手なことされちゃ困るのに…」

そう言ってこちらへ振り向き、あ! と少女は声を上げた。茶色の目をぱっちり見開いて、何故かげっそりとしているザップ、呆然とトランクの前に立つレオナルドを交互に見やり、あー!! と叫んだ。周囲の目が痛い。

「ザップ・レンフロさん、それにレオナルド・ウォッチさんですか!?」
「うぇ…? あ、はい、そうであります」

レオナルドの何とも間抜けな返事もそこそこに、少女はひゃー! と感嘆の声をあげて駆け寄ってきた。

「はじめまして! はじめまして! 私、アユです。アユ・マクラノ。よろしくお願いします、先輩お二方!」

気持ち悪そうに座り込んでいるザップとゆるく笑うレオナルドの手をつかんでぶんぶんと振り、少女は満面の笑みで自己紹介をした。
レオナルドの方もなんだかよく分からないがとりあえず任務遂行の第一段階を突破したことに気付き、改めて自分の目の前でへたりこんでいるザップに笑いかけている少女を見つめた。写真と同じ(当たり前だが)栗色の髪、茶色の丸い目、自分より低い身長。妹がいるレオナルドには、いくらか懐かしく感じてしまう存在のような気もする。資料である程度の彼女の経歴は把握しているし、歳も近いしで、仲良くなれそうだなぁと何となく思っていた。
しかし、だ。レオナルドが彼女に早く会いたかった理由は、それではない。

「ヴぇえ〜……ごきげんようクソ新入りお嬢……ウッ……」
「ザップさん、どうかなさったんですか? 体調がすぐれな……」

そこでハッとしたアユは、まさか、と呟いて、ザップを問い詰め始めた。

「あの、貧血ですか? もしかして、目眩がして、気持ち悪いとか……」
「あ”〜まぁ……まーだな……」

その言葉を聞いてガーン! とハンマーで殴られたかのような衝撃を受けたらしい彼女は、ウップ、と嗚咽を零すザップの前で全力で土下座しだした。

「ちょ、え!? アユさん!? こんなクズ先輩に会ったばかりで土下座することはないよ!」
「おぉーういんもー……おめぇ随分……達者な口を聞くもんだな……」
「ごめんなさい!! ちょっとはセーブできるだろうと思ってたんですど、まさかこんな近くにいらっしゃるとは……!!」

私のせいなんです、その貧血!!

そう悲痛に叫ぶ少女の言葉を聞いて、レオナルドは思い出した。

(そうだった、この子……”グルズヘリム”だ)
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