Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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06.

「ウィ、スティーブン。ああ、クラウスか。アユ?無事だよ、何とか見つけた。ついでにちょっと面倒な者に襲われてね……もうすぐそっちの方で”ブラックビーダム”が出ると思う。火に弱い種だから、ザップをあててくれ。OK、頼んだ」

スティーブンが電話している間も、ピキピキピキ、と音を立ててホワイトビーダムは凍りついていっていた。スマホをしまい、はぁと白い息を吐いてスティーブンは地面に座り込むアユの方を向いた。

「さぁ、取り敢えずここから出ようか。お嬢さん」

アユの手をとって、屋根のように二人の頭上に広がる白い塊をくぐって外に出る。先程までの強風が嘘のように、いつも通りの霧っぽい景色がそこには広がっていた。長い、沈黙。

「………」
「………」
「……か、」
「君が、」

勝手に出ていって、ごめんなさい。
俯いたままアユがそう言おうとした直前に、スティーブンの方が口を開いた。

「負い目に感じることじゃないよ。さっきも言ったけど」

アユは顔を上げ、スティーブンを見つめた。彼はアユの横で彼女の歩幅に合わせて歩き、優しい冷気を纏って言葉を続ける。

「君の”それ”は、怠慢や手抜かりが原因のものじゃないだろう。どうしようもないくらいに、生まれつきの代物だ。言わば個性の一つだよ」
「……でも、いつか急を要する事態に陥った時に、私が魔法を使ってしまうかもしれません。その時に皆さんの近くにいたら……」

さっきより、ひどいことに。
スティーブンははぁ〜と長く息を吐いた。頭をがしがしとかいて顔をしかめるスティーブンを見て、アユは何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうかと焦っている。彼はどうにもバツの悪そうな顔をして、アユの方に改めて向き直った。

「いや、その……なんだ……さっきは、悪かった」
「……え?」
「君を慰める方に徹しようかとも思ったけど、やっぱり違うな。謝罪が先決だ……君の力を、みな見誤っていたよ」
「う、ええ!? 謝るのはどう考えてもこっちの方ですよね!? だってスティーブンさん、何も悪いことしてません!」

アユはてっきり慰められ続けて、以後一人で事務所を出ないように〜とか言われるんだろうと思っていた。思っていたからこそ、スティーブンの突然の謝罪に心底驚いていた。

「いやいや、そうじゃなくて。実害どうこうは結局のところ、僕らが君の忠告を無視して…君の力を見計らってやろうと舐めてかかっていたところに原因があってだな」
「でも、それが普通ですって。だからこそ、私がもっと止めていれば……」
「謝罪くらい素直に受け取ってくれ。アユ・マクラノ」

スティーブンは困った様に笑ってそう言った。アユはなにか言い返そうとしたが、謝っているのに謝るなと言われてもどうしようもないだろうな、と思う。いつの間にか歩みを止めていた二人は、しばらく沈黙した。

「……あの、私も謝らなくちゃ」
「ん? 君はもうさっきまでで謝り尽くしたんじゃないか?」
「いえ、一人で携帯も持たずに出ていったことを……」

ああ、そういえば、とスティーブンは明るい声を出した。

「今日は色々仕方ないとしても、出来ればこれからは誰かと一緒に行動してもらいたいな。さて、時計を買いに行くんじゃなかったのかな? お嬢さん」
「……あ、そうでした」
「一人じゃさっきみたいな厄介な者につかまるかもしれない。僕もお付き合いしよう」
「え!? いや、でもあの」
「ん?」

答えは”はい”か”イエス”のどちらかだと言わんばかりに満面の笑みで見下ろしてくるスティーブンから、ただならぬ冷気を感じたアユは、「……お願いします」と小さく呟いた。
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