04.
異界と現世の交わる街、ヘルサレムズロット。ここでは、異常が日常。街を歩く大半は向こう側の住人で、ここに住み着いている人間の半分以上は訳アリだ。だから私もきっとここに来れば、大したことないただの一般人と変わりなくなるんだろうなぁと思っていた。
「むしろ脆弱な方かな、とか」
アユは時計を買いに行く訳もなく、気の向くままに歩いて、たまたま見つけた広い公園のベンチに腰掛けていた。近くにいい大きさの木が佇んでいて、アユの話し相手になっていた。
「でも、改めて思った。私はきっと、ここにはいちゃいけないんだ」
世界の均衡を保つべく日々死闘を繰り広げている秘密結社”ライブラ”。彼らの中には勿論、多くの”牙狩り”がいる。彼らは血界の眷属に対抗できる人類側の一握りの存在で、ずっと私の憧れだった。ロロカリアンとして、シャミアニードの一員として世界中を回る母や、圧倒的な力を持って敵を追い詰める祖母。多くの親戚たち。私は幼い頃、その背中を見て、いつか自分もこうなるんだろうと胸を踊らせていた。
「手のひらを返す、ってこの事か。ってね、ある日思って」
7歳になった頃、母から自分は普通のロロカリアンとは違うのだということを聞いた。それでもあなたは私の可愛い娘よ、と母は言ってくれたが、周囲の私を見る目は、ほぼ180度変わった。
この子はグルズヘリムだ、期待していたのに。
牙狩りにはなれないな、可哀想に。
魔法を教えない方がいいんじゃなくて?
「いつだったかな……」
あの言葉を、言われた時は。
*
「アユ!」
スティーブンは半ばヤケになって、少女の名前を呼んでいた。アユは恐らく携帯を持たずに外に出たのだろう、いくら電話しても繋がらなかった。何たることか。この僕が、昨日入ったばかりのしかも超重要人物に、GPSを渡し忘れるなんて。
「時計……ってことは雑貨か?」
だとすれば2ブロック先の大型店か、近くにある個人営業の店だ。いや待てよ。彼女がここにやって来たのは昨日。そんなに詳しく地図を眺めていた訳でもなさそうだった。そして彼女は今、傷心している。人は精神的に辛い時、どこに向かうか。いや、人というか、彼女は。
『やる気は出ます。エネルギーを貰ってるような感じがするんです。』
ここから一番近い、緑がある所だ。
スティーブンは踵を返して公園へと急いだ。
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