09.
給湯室からのいい匂いに釣られて、ソニックが中に入っていった。
「……キ!」
「ん? あ、おはようソニック。食べる?」
「キキッ、ゥキュ!」
「これがいいのね? バナナ! ヨーグルトついてるけど、大丈夫かな?」
給湯室の一画に、アユの朝食が並べられていた。空港で買っておいた食パンとハム、チーズを乗せてオーブンで焼いたものと、輪切りのバナナを入れたヨーグルト。昨日のパーティーで食べ過ぎたアユには、これくらいで丁度良かった。
ソニックと仲良く遅い朝食に舌づつみを打っていると、給湯室のドアが開いた。
「おや、随分可愛らしい構図だな」
「あ、スティーブンさん! もしかして、もうすぐミーティングですか?」
可愛らしい、という言葉にちょっとどぎまぎしながら、そんな素振りを見せないように注意を払って、アユはスティーブンに言った。
「いや、時間はまだもう少しある。コーヒーをいれにきたんだ」
「それなら私がいれますよ。結構濃いめですよね」
「うん……あれ?」
なんで知ってるんだ? スティーブンのそんな疑問をよそに、アユは二人分のコーヒーをいれていく。
「私もコーヒーは、濃いめのブラックが好きです」
「意外だな。ミルクだの砂糖だのを沢山使ってそうなのに」
「一度ブラックの美味しさに気付いたら、そうそう甘いものは飲めませんから」
ソニックがじっとコーヒーメーカーを見つめているので、「熱いから触っちゃダメだよ」と言いながら、アユは笑った。
ブラックのコーヒーが好きなのか。しかも濃いめ。
「君はどうやらここに馴染んだようだけど、僕達はまだ君のことをよくわかっていないな」
「……どういう振る舞いが正しいかとか、誰が何を好きかとかは、教えてくれているので」
建物と、植物が。
そこだけ何故か寂しげに呟いたアユは、出来上がった熱いコーヒーをスティーブンのマグに注ぎ、はい、と手渡した。そしてちらりと背後の朝食を見て、
「ミーティングまでには片付けておきます」
気にすることはない、と言うつもりだったが、今更特別扱いも違う気がして、スティーブンは答えた。
「ああ、そうしてくれると助かるよ。コーヒーありがとう」
彼女が”新入り”から”メンバー”になるのは早かったな。と改めて思って、スティーブンはマグに口をつけた。いい塩梅の濃さだった。
To be continued…
prev next
top