08.
程なくしてクラウスとギルベルトが到着し、ツェッドが温室から姿を現した。K.Kは非番で、チェインはもうすぐ着くはず。ザップは毎度の如く遅刻だろう。ミーティングの時間が近付いた頃、キィ、とアユの自室の扉が開いた。
「あっ、おはようございます、みなさん」
先程と違う服装で現れたアユは、何やらローブのようなものを纏っている。真っ白な生地に、緑の蔦のような刺繍が所々施されている。
「うむ。おはよう、アユ。疲れは取れただろうか」
「はい、お陰様で」
そうニッコリ笑って、事務所のソファがある辺りまでやって来て、時計を確認する。
「よかった、間に合った……」
ほっと一息ついているアユに、レオナルドが話しかける。
「アユ、部屋に時計無いの?」
「はい。どうやら忘れていたみたいで……後で色んなものを買いに行かなきゃなぁと思ってます。ミーティングが始まるまで、ご飯食べててもいいですか? クラウスさん。給湯室の冷蔵庫に、色々置かせてもらってるので……」
「ああ、構わない」
給湯室へ向かっていったアユを目で追いながら、スティーブンは先程いれた濃いめのブラックコーヒーに口をつけた。
ここに馴染むのがあまりにはやすぎる。それが今のスティーブンの率直な感想だった。昨日は驚きの連続で、うまく新入りのことを分析する余裕がなかったが、こうやってじっくり観察していると、まるでずっと前からここにいたかのように、人にも、家具にも、空気にも、アユは馴染んでいるのだ。
「才能ねぇ」
人たらしとか、女たらしとか。散々に言われてきたスティーブンだが、そこにはそう見せている部分もあって。それを言われてこその、演技であったりもするのだ。
スティーブンは、昨日アユがクラウスに渡していた、天然100%の日本産の小さな植物のことを思い出していた。
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