Magic Green!!!本編 | ナノ
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07.

「はざます……」

アユが自室に戻り、数分としないうちに事務所の扉を開けたのは、意外にもレオナルド ウォッチであった。

「ああ、おはよう少年。しかし君は今日は非番じゃなかったか?」
「それがですね、昨日家帰ってすぐにアパートが区画クジに当たってしまいまして……」

40秒で支度しろと言われた時に、レオナルドが真っ先にカバンに詰めたもの……財布、通帳、着替え……とかそういうのは、一応いつでもどこにでも持ち歩いているので、小さな安テレビにはそぐわないほどの輝きを放っていた、PSQ3だった。
本当に40秒で追い出された後は、仕方ないと近所にあるバイト先(深夜営業している)に身を寄せ、テレビはないからPSQ3は出来ないよ、と言われ。半泣きでソニックとよりそいながら眠ったのだ。

「ということは、また新しい家を探すのか、可哀想に」

呆れたように笑うスティーブンに、レオはむう、と頬を膨らませて抗議する。

「可哀想とか絶対思ってないじゃないすかー。あーあ……せっかく昨日は珍しくカツアゲされなかったのに……」

カツアゲ、という言葉を聞いて、スティーブンは昨日考えていたことを思い出した。

「そういえば少年。昨日……お嬢さんを迎えに行った後、ザップとはどこらへんで別れたんだ?」
「え? っあ〜……多分、関門抜けてすぐ、ですけど……荷物あったんで、ランブレッタに乗って帰れなかったんすよね、1時間くらいかかりましたよ〜」

スティーブンがちらりとアユの自室を見てからレオナルドに問いかけたので、彼も思い出したように話し出した。

「君はいつも、”1時間ほど一人で”外を歩いている時は、どれくらいの頻度でカツアゲにあう?」
「まぁ、毎回必ずっすよね。ひどい時は2、3回合いますし。最近は逃げ方もうまくなって………」

そこでレオナルドはハッとする。あれ、昨日は俺、あんだけ大荷物で、しかも俺よりか弱そうな女の子隣にいた状態で、カツアゲに合わなかったのか……?

「区画クジの話を聞いて、君自身の運気が上がったわけではないのだということがわかった。やっぱり予想はしていたが……」
「……アユっすか」
「まあ、だろうね。彼女は、常に周囲に何らかの結界を張っているのかもしれない」
「……すげーなー……」

ん? とスティーブンがレオナルドの方を見ると、彼はソファに腰を下ろして、足を投げ出し、はぁあ〜と息をはいた。

「彼女、ここは初めてのはずなのに、あんだけ冷静なんすよね。日本っていうのは、まぁ言っちゃ失礼かもしれませんけど……超平和な国じゃないすか。そこから急にこんな訳わかんねぇ街に放り出されて、大役押し付けられて……」
「その”神々の義眼”を持つ君も、相当の大役を押し付けられているのには変わりはないだろう」
「や、彼女は俺よりずっと強いっすよ。昨日1日一緒にいただけで十分わかりました」

戦闘能力も、精神的にも。昨日一緒にライブラまで来る間、義眼で一応彼女のスペックを把握していたレオは、その高いポテンシャルに圧倒されていた。自分よりも年下の、銃も持てない国に住む女の子が、これだけの力を持って、HLにやって来た。

「……そうやって自分自身の価値を下げるのには感心しないな。君の能力も、心の強さも、ライブラは買っている。もう少し自信を持ってもらわないと」
「そっすね、ハイ」

すんません。と力なく笑うレオナルドに、スティーブンはどうしたもんかな、と思った。新たに出来た後輩が、自分より強かったなんて言うのは、ツェッドの時にもうあったけどな。あの時と違うのは、その後輩とやらが、平和な国からやってきたか弱そうな女の子だったというとこか。
まあ、男だったら傷心しないこともない。

「ほら、元気を出しなさい少年。昼飯おごってやるから」
「えっ! ホントっすか!! やっりー!!」

急に元気になった少年を見て、なんとなく心配して損をした気分になるスティーブンであった。
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