Magic Green!!!本編 | ナノ
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03.

「だから言ったじゃないですか!」

アユが完全に結界を張り終わり、周囲を見回した時には、ライブラメンバーの殆どは倒れていた。クラウスのみ、机に腰掛けたまま少し顔色を悪くしていたが、それ以外はほぼ全滅。ザップとレオナルドは仲良く失神しているが、ツェッドはアユから一番遠いところにいたおかげで、辛うじて意識は手放していない。直前に体制を整えたスティーブンも、今は床に立膝をついて憔悴している。チェインが見当たらないが、恐らく直前に危険を察知して建物を離れたに違いない。それよりも奇妙なことは、ギルベルトがどこにもいないことだった。床に突っ伏して気を失っているのでは、とアユの心配ゲージが最高潮に達した時、事務所の扉が開いた。

「ギ、ギルベルトさん!」

いつの間に出てたんですか! とアユは半泣きでギルベルトの元に駆け寄った。

「先程、貴女が魔法陣をかいている間に。この爺には少し強すぎるかと思いまして」
「よかった、心配しました……」

ほっと胸を撫で下ろし、アユはもう一度ぐったりしているライブラメンバーを見渡し、思いきり頭を下げた。

「すみません! ほんとに、もっと止めていれば……!」
「いいや、君が謝る事じゃない。僕らがちょっと……舐めてたっていうかね」

うっ、と顔を青くしたままで、スティーブンは頭を上げないアユを慰めた。

「えらく綺麗な一部始終だったんで、つい見とれてしまったよ。お見事お見事」
「でも……」

やっぱり、駄目だ。自分が正真正銘”グルズヘリム”なのだと改めて突きつけられてしまった。これでスティーブンが先程言っていたように、皆余裕しゃくしゃくと立っていてくれたら、どれだけ嬉しかっただろうか。そんなことはまずないだろうと思っていたけど。

「スティーブンの言う通りだ、アユ。美しいものを見せてもらった。ありがとう」
「クラウスさん……」
「私も直前まで見てたよ。すっごかった」

ナイス! と親指を立て、どこからともなくチェインが現れた。その足は、気絶したザップの腹の上にふわりと着地した。

「いででででで!!!」

急に腹にのしかかった重みに苦痛の表情を見せ、失神していたザップは目を覚ました。その横では未だにレオナルドが気絶している。

「あの、褒めていただけるのは嬉しいんですけど、これからはやっぱり……皆さんがいらっしゃらない時に張らせて貰います」

ありがとうございます、色々。
最後の方は涙声で、ふるふると震えながらもう一度頭を下げたアユは、時計を買ってきますと言って事務所を跡にした。

「……まいったな」

はぁ、と溜息をこぼして、スティーブンはその場から立ち上がり、椅子にかけてあったジャケットに手をかけた。

「彼女は僕が追うよ。ギルベルトさん、この三人の看病をしてやってください」

どうやら辛い思いをさせてしまったらしい。それもそうだ。彼女の一番のコンプレックスである”グルズヘリム”という真実を、突きつけてしまったのだから。彼女は止めたのに。そして何より、自分達が彼女の力量を直前まで見誤っていたことに、スティーブンは腹を立てていた。ゲルダ婆をあそこまで言わしめる逸材であるのだとわかってはいても、あの小さな少女に何か出来ることがあろうかとどこか鷹をくくっていた所があった。あの魔法陣もおそらく、基本の型の中でも最難関のものだろう。無詠唱に気付く前に、意識しておくべきだった。
エレベーターを降り、裏道を抜けて、喧騒渦巻くHLの街中に出る。周囲を見回し、白いローブの少女を探す。そしてその時、最大のミスを犯していたことに気付いた。
アユに、GPSを渡していなかったのだ。
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