Magic Green!!!本編 | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
02.

他のメンバーが見守る中、アユは広い事務所の中心に立ち、白と緑のチョークで魔法陣の様なものを描いていた。グルズヘリムは人前でロロークやその他の魔法は使えない。守護魔導による結界も例外ではないが、対BB用魔法という訳でもないので、人間にはロロークほどの害は及ばないのだという。それでも事務所の外に出ておくことを強く勧めた(というかお願いした)アユだったが、メンバーはみな、大したことないなら大丈夫だろうと言って室内に残った。純粋に好奇心というのもある。

「おいチビ。やけに古風な方法だな」
「チビって私のことですか、ザップさん……これが昔っからスタンダードな手法なので」

ザップはいつの間にか、アユのことをチビと呼ぶようになっていた。それはついこの前までレオのあだ名であったのだが。

「アユ、こんなウンコ猿の事は1ミリも気にしなくていいから。にしても随分手馴れてるね」

んだと雌犬! と噛みつくザップを軽くあしらい、チェインはアユのそばに寄った。

「吐くほど練習しましたから、基本の型なら目をつぶってでもかけますよ」

そう笑いながらカリカリと床に描き足されていく複雑な模様は、彼女が身にまとっている白いローブに刺繍された緑の蔦のように絡まり合い、どんどん広がってゆく。

「すげー。さながらアートっすね」
「だな。アユ、どうでもいいことかもしれないけど、そのローブはシャミアニードの正装だったりするのか?」

レオも尊敬の眼差しでアユの手先を凝視している。スティーブンは先程からちょっとだけ気になっていたことを尋ねてみた。

「はい。18歳の誕生日の時にもらいました。新人は白基調で、あとは職場とか階級によってローブの色が変わります」
「へぇ」

昨日ここに訪れたゲルダ婆がロロカリアンとシャミアニードのトップだから、紫のローブが最高位か。とぼんやりスティーブンが考えていると、ようやく魔法陣を書き終えたアユがチョークをしまい、手をぱんぱんとはらった。

「終わりました!」
「すごいですね」
「うむ、とても美しい」

ツェッドとクラウスが感嘆の声を上げた。事務所の中心から書き始めたそれは、一部が壁に届く程に広がっていた。白は基本的な形をとり、そこに重ねるように緑がうねうねと絡まっている。緑の数本は長く伸びて壁や本棚にも到達している。

「これは全部、結界を張った後にはちゃんと消えるのでご心配なく。あと……みなさん、ほんとに外に出てなくてよろしいんですか?」
「僕達もそこまで弱くないさ。ロロークや戦闘魔法でなければ、さほど害もないんだろう? 今日は皆これといって体を動かす仕事はないし、いいんじゃないか?」

緊急招集意外でね。と余裕たっぷりに笑うスティーブンに食ってかかったのは、昨日アユの魔法の被害にあったザップである。

「このチビの魔法舐めてっと気絶しますよスターフェイズさん! 俺はあんなに気持ち悪くなんのはもうゴメンだ」
「ならザップ、出とくか? 一人で」
「そっすよザップさん。何だかんだ言って一番結界張るとこ見たいのあんたでしょ」
「ぐっ……」

だー!わかったよいればいいんだろ!と何故かキレだすザップにチェインは盛大に舌打ちし、いつもの如く二人で口汚い罵りあいがはじまる。

「ほらほら二人とも! 魔法陣に触っちゃったらどーすんすか!」
「それもそうだな、続きは後でたっぷりやりなさい」

あらかた静かになり、メンバーはアユの動向を見守った。アユは最後に、魔法陣の外側に人ひとりが入れるくらいの大きさの白い円をかき、その中にすっぽり収まった。そしてちらりとクラウスを見た。

「我々の事は気にすることは無い。普段通りに結界を張ってくれまいか、アユ」
「……わかりました、先に謝っておきます、すみません」

すう、と息を吸い込み、アユはゆっくり目を閉じた。ふわふわと降ろされていた栗色の髪が、風でも起こったかのように舞い上がっていく。ぐぐぐ、とどこからか何かが圧縮される音が聞こえ、ザップがなんだこれ、と口に出そうとしたのをレオが手で無理やり塞いだ。アユの白いローブがはためき、床に広がる白と緑のチョークが輝き始める。だいぶファンタジーな光景に、そこにいる誰しもが目を奪われていた。 アユは目を閉じたまま、微動だにしない。スティーブンはその姿にまさか、と顔をひきつらせた。

無詠唱か?

いつだったか、ロロカリアンの魔法学について知識を増やすべくある程度調べた事があった。ロロカリアンにとって詠唱は基本形で、無詠唱は高度な魔法を使う時。結界を張る際は、常人なら詠唱でなければ正常に作動しない、とも書いてあった気がする。つまりそれだけ、無詠唱というのは高レベルなもので、一定の水準を超えたロロカリアンでなければ使えないはず。

(まずいな)

外に出ておくべきだった。

そう思ったが時既に遅し。スティーブンが身構えた瞬間に、ライブラの事務所は真っ白な光に包まれた。
prev next
top