Magic Green!!!本編 | ナノ
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05.

(随分早起きなお嬢さんだ)

扉を開けた時、ガラス張りの窓のそばに、びっくりした顔でこちらを見つめる新入り守護魔導士の姿があった。確実に昼過ぎまで起きてこないのだろうと思っていたものだから、とりあえず真っ先に彼女の健康状態を心配した。

(一通り建物と話させたら、ミーティングが始まるまで寝かせよう。後で起きていれば、結界を張る様子を観察したいところだ)

日本人らしくぴしぴしと真面目に動く彼女のことは、さほど嫌いではない。18歳にしては、相当しっかりしている方だと思う。自分が相手にする女性は、ほとんどが男に頼り、甘える為に自分を魅せている者達ばかりだから、ライブラの職場で働く女性というのはなんとも清々しくて良い。と最近スティーブンは思うようになっていた。

(いやいや、そういうどうでもいいことより、こっちの方が厄介だな)

ハァ、とアユに聞こえないように溜息をつき、スティーブンはデスクに広げられた書類に目をやった。昨日、ゲルダ婆がお帰りになってからしばらくしないうちに、シャミアニードから大量のメールが届いた。内容は全て、エギンウイルスについて。もはやライブラとシャミアニードで情報を共有しなければならない程に、悪い状況にある、ということなのか。そういえば、別に兄弟分の秘密結社と仲が悪かった訳でもないのに、昔から向こうもこちらもあまり手の内を明かさないようにしていた。それはどちらも秘密結社だからだろうといって片付けていたことだったが、よく考えたらあまり効率の良い行為では無かった。もう少し歩み寄る必要があるな、とスティーブンは思った。

「うん、うん……そうね。わかるよ……」

ちらりとアユの方を見ると、何やらぶつぶつと建物と会話している。昨夜の植物と話している時とはいくらか違うその様子に、やはりこっちが普通のグルズヘリムの能力で、昨日のアレがアユ特有の能力だったのだろうと何となく納得した。

「ありがとう、それじゃあ、また後で、結界を張りますね……………スティーブンさん、終わりました。」

傍から見たらだいぶ変ですね、すみません。とまたしても頭を下げ、アユはへらっと笑った。

「結構早かったな」
「落ち着いた建物ですから、言葉によるコミュニケーションはそこまで必要無いみたいです。ここのリーダーとそっくりな性格をしてます」
「はは、そりゃあそうだろうね……ところでアユ、やっぱり君は寝ておいた方がいいよ。後で結界を張る時に疲れが溜まってちゃまずいだろう?」
「あ、やっぱりそうですよね。それじゃあ、お言葉に甘えて……ミーティングの時間までには起きてきます」

そう言って自室に戻ろうとしながら、アユは微笑むスティーブンをじっと見つめた。

「? 何か?」
「あっ、いえ……その、スティーブンさんって」

ハリウッドスターみたいですね。

何故かアユの方が照れくさそうにしてそう言うと、自室の扉を開け、失礼します、と中に入っていった。

「………ハリウッドスター、ね」

表面的には存外悪くない響きだが、それでいて既にスティーブンの本質を見抜いているその単語に、ふ、と彼は笑をこぼした。
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