Magic Green!!!本編 | ナノ
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04.

「ううう……む……うー……」

背中が痛い。何となくそう感じて目が覚めた。ぱちり、と目を開いた時、広がる天井がいつも見ているものと違って、一瞬だけ焦る。そしてぼんやりした頭が段々整理されてきて、そうだ……私はHLのとあるビル、秘密結社ライブラに住み込みで働く守護魔導士だっけ。という所まで思い出してから、

「まずい!!」

そう叫んでアユは勢いよく体を起こした。

「じじじじ時間!!! なんだっけ……ミーティング? 会議? 取り敢えずパジャマ脱いで……ってああ、朝ごはんどうしよう…… 」

長時間飛行機の中で過ごし、疲れを癒す前に祖母にとんでもない大役を任され、歓迎パーティーが嬉しくてついはしゃいでしまい、夜遅くに植物達と会話したところまでを思い出した。その間にアユは自室に備え付けられた小さな洗面所で顔を洗い、歯を磨き、髪を整える。背中がキシキシと痛むのは、ベッドが変わったからだろう。

(時計を備え付けるの忘れてた……けど、もう昼近いよね? しまった……最初からこんなんじゃ、絶対だめなのに。)

昨日最後に事務所を出たスティーブンは、一応明日のミーティングの時間を教え、

「疲れてるだろうから気の済むまで寝てていいけど。もしこの時間に起きてたら、プレミーティングって感じで聞いていても構わないよ」

と言ってくれたのだ。それはつまり、出てきていれば、それなりに新入りの私の株が上がることになる。アユは世間体裁とか、人からの信用とかに、人一倍敏感な人間だった。元々グルズヘリムという大きなハンデを背負っていたから、小さいころからそれ以外のところで周囲から認められようと奮闘していた。今ではすっかり自分の性格の一部に組み込まれたそれは、この異常が日常の街に来ても、変わっていない。

(昨日は、スティーブンさんが帰った後……)

アユは自室の結界を張って、周囲に誰もいないことを一応確認し(ツェッドはドアをまたいだ温室側にいるから、彼に被害が及ぶことはないだろう)、魔法を使ってちゃっちゃと細かい部屋の整理を済ませ、シャワーを浴びてベッドに直行したのだ。
アユが住み込んでいるこの部屋は、事務所と温室のちょうど境目のところに特に何の意図もなく置かれていた物置を改造して作られたらしい。アユがやってくることが決定してから、洗面所、シャワー(なんと、バスタブもついている!)、トイレ等を備付けてくれたのだという。部屋は6畳ほどで、アユ一人なら何の問題もない程の広さだった。強いて気にすることがあるとするなら、それは防音だった。アユの自室の扉を開けると、すぐ事務所なのだ。しかしこれは、アユの得意分野である守護魔導の結界を張ればすぐに解決した。一応、と思って日本にいる時に習得していた生活結界(とアユが勝手に読んでいるだけで、防音とか、換気とか、耐震とかに役立つ守護魔導である)が役に立ったので、とりあえず快適に暮らせそうな予感がする。
焦りながらもてきぱきと身だしなみを整え、よし、朝一番はやっぱり「おはようございます」だよね、と呟いて、深呼吸をした。

ガチャり

「おはようございます! 遅くなってすみま……ん?」

完全に寝過ごしたと思っていたのだが、扉を開けるとそこには、電気すらついていない薄ぼんやりとした事務所が。誰かがやって来た気配もせず、昨日スティーブンが出ていった時と何も変わっていない空間が、そこには広がっていた。

「あれ? 今……何時だろう?」

事務所の時計に目をやると、そこには5:45の数字。おかしい、クラウスの机の背後に広がるガラス窓から霧の中の景色に目を凝らすが、いかんせん霧のせいですべてがくぐもって見える。

「なんだっけ、これ……時差ぼけ? それにこれじゃ、朝か昼かもよく分からない……」

ぼんやりと呟いた瞬間、ぱち、と事務所に明かりがついて大層驚いた。直後に扉が開き、昨日一日でだいぶ見知った美丈夫が姿を表した。

「ん? アユ!?」
「あ、スティーブンさん、おはようございます」

スティーブンはのんびりと挨拶するアユにちょっと驚いているようだ。参ったな、と呟いて、こう言った。

「まさか朝一番で、また君に驚かされるとはね」
「すみません、完全に寝過ごしたと思って大急ぎで準備したんですけど……時差ぼけかもしれません」
「大丈夫かい? ミーティングまではまだ随分時間もあるし、寝ていても構わないけど」
「いえ、もう目もさめちゃったので……昨日出来なかった植物と、あと建物に挨拶を」

アユはぐるりと事務所を見渡した。床、壁、窓、本棚やソファ、テーブル。全て統一感のあるアンティーク調で、この組織の幹部達の品の良さが伺える。

「ああそうか、グルズヘリムの守護魔導は、建造物との意思疎通によって生み出されるものなんだっけ?」
「はい、独り言みたいで気持ち悪いかもしれないんですけど、出来れば無視していて下さい」
「ああ、君が望むならそうしよう。僕も少し書類仕事を片付けなきゃならないしな」

アユは、スティーブンの優しい口調ににっこり微笑んですみません、と会釈をし、目を閉じて建物の声に耳を傾け始めた。
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