Magic Green!!!本編 | ナノ
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02.

パトリックには秋葉原で手に入れたファンタジーなモデルガン(お前が持ってる武器の方がずっとファンタジーじゃねぇかとザップにつっこまれたが、パトリック曰く「使う為に作られてないからこそいい」らしい)、ニーカには日本にだけ展開しているドーナツチェーン店のドーナツ詰め合わせとキーホルダー、その他の構成員には扇子、香水、漬物、何だかよく分からないアニメグッズ、魔法少女のコンパクト、なにやら怪しい気配の漂う薄い本……などなど、彼女の紙袋からは四次元ポケットさながらに物が溢れ出てきて、パーティーに集まった誰しもが日本という遠い島国に思いを馳せながら酒を酌み交わした。22時をまわったころ、祝われる側のアユに少しの疲れの色が見えたのをスティーブンがうまく見計らい、撤収の呼びかけを行った。即席だったが集まってくれた50人近い構成員はほぼ全て出払い、残ったのはアユ、クラウス、ギルベルト、スティーブン、チェイン、レオナルド、ツェッドとなった。
食い散らかし飲み散らかしされた所をみんなで軽く片付け、レオナルドはアユからこっそり(なぜこっそりするのかはアユにはよくわからなかったが)PSQ3を受け取り、本部を後にし、チェインはアユが住み込むことになった本部と温室の境にある小さな部屋を整えるのを手伝い、和牛のしぐれ煮を片手にアユに軽くハグをして颯爽と帰宅した。
あらかた人とすべきことを片付けたアユは、クラウスとスティーブンと共に温室へ向かった。

「すみません、もう夜も遅いのに……」
「いや、全く構わない。ところでアユ……温室と君の能力とに、何か関係があるのだろうか?」
「そうですね、私はグルズヘリムの中でも、だいぶ違うんだってことには気付いてたんですけど……もしかすると”これ”が原因かもしれません」

ガチャ、温室への扉が開かれ、クラウスがアユを中に案内した。

「うわぁ……」

そこには完璧に手入れされ、愛の込められた生命の空間が広がっていた。緑は静かに佇み、夜であるからか、多くの花はその花びらを閉じて、ひっそりと息をしているかのようだった。

「何度入っても、驚かされるよ、全く……」

スティーブンが呆れたように感嘆の声を上げたのとほぼ同時に、アユは温室の中心へ駆け出し、あろうことか植物に声をかけ始めた。

「こんばんは、夜遅くにごめんなさい……アユ・マクラノです。よろしくね、みなさん………本当? ありがと歓迎してくれてうれしいよ」

傍から見ればだいぶ滑稽な状態なのだろうが、この子は、まさか。

「うん? ええ、はじめまして。素敵な葉っぱね、ゼラニウム。明日は花を見てみたいなぁ……ここのバラ達は? そう、クラウスさんが株分けされたのね……こんばんは、貴方が年長者の木ですね、失礼ですが、おいくつですか? ……すごい! なるほど、ラインヘルツ家からここに……! 私の六倍は生きてらっしゃるのね」

独り言のように一つずつ植物に語りかける少女を、ぽかんとしながら温室の入口を塞いで見つめていたクラウスとスティーブンの後ろで、水槽に帰りたいツェッドが「何があったんですか」と顔を出した。

「あー、クラウス……彼女が話していることは、本当だろうな…? 違ったら、そうとうヤバい子を招き入れたことになってしまうけど……」
「スティーブン、彼女が言っていることは本当だ。あのバラの株分けは私がしたし、あの楠はラインヘルツ家の庭から貰った一株で、樹齢は100年を超えている」
「えっ、なんですか? アユさんが何か……?」

二人の大男の間からじっとアユを見つめて、彼女の真の才能を知り、ツェッドも驚きを隠せずにいるようだ。

「今夜はありがとう、また明日、会いにきますね! ……あ、みなさん、ありがとうございました。スッキリしました」
「アユ、君はその……」
「植物と話ができるのかい?」
「できるんですか?」

クラウス、スティーブン、ツェッドに詰め寄られて、アユはちょっとだけたじろいだが、すぐににっこり笑って答えた。

「はい。正確には、意思疎通ですけど……植物は言葉を持ちませんが、僅かながらものを考えていて、感情も持っているんですよ。ここの温室の植物は、みんなクラウスさんを慕っています」
「うむ、それは……なんと感慨深い……」

クラウスがちょっと泣きそうなのにも驚くが、それよりこんな、漫画みたいな能力を持つヒューマーがいたのだということにスティーブンは驚きを隠せなかった。ここがHLであるということは十分承知だ。HLには何でもある……しかし、彼女は天然100%の人間である。これまで魔封街とは無縁の島国で生きてきた、ただの少女である。

「へぇ。じゃあ、一般には意思を持っていないとされる生命なら、何でもそうなのか?」
「いえ、動物とかだったら、もう少しわかりやすいんですけど……ビヨンドとはまだ話したこともありませんし」
「……なるほど、アユさんが強力な守護魔導を使える所以は、おそらくこれにあるのでしょうね」
「そうかもしれません。今は、おばあちゃんは、私が少しでも力を発揮しやすくできるように、ライブラを選んだんじゃないのかなっても思えてきて……」

その言葉に三人はさらに驚いた。

「つまり、君は植物が近くにいると、守護魔導の強さを増すことができるのか」
「そこまで莫大な力は望めませんけど、やる気は出ます。エネルギーを貰ってるような感じがするんです。植物ほど逞しく生きている命は、そうそうありませんよ」
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