Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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02 Green Speaker

01.
ゲルダ婆がお帰りなすってから、ギルベルトがアユを彼女の自宅となる……事務所の中の一室に案内した。基本的な家具は取り揃えられており、事務所と同じようにきれいさっぱりとしている。

「少し狭いやもしれませぬが、お許しください」
「いえ、お気遣いなさらず……!」

そう言って部屋の整理を始めているうちに、非番だったため公園で大道芸を披露していたツェッド・オブライエンと、人狼局の仕事を終えたチェイン・皇、リンダとやらと遊ぶだけ遊んで満足げなザップ、散歩の途中でそのザップの姿を見つけて、レオナルドの親友であるらしい音速猿のソニックが戻ってきた。
程なくしてパトリック、ニーカやその他のライブラ構成員も集められ、改めてアユの紹介と新入り歓迎パーティーが開かれた。スティーブンが休めと言っていたが、アユはさほどの疲れを感じることも無かったので、紙袋の山から一人一人へのお土産を渡し始めた。

「リクエストを頂いた中から、可能な限り待ってきました。よければ、受け取ってください」

アユの初仕事ということもあり、ゲルダ婆をはじめとしたシャミアニードは、彼女に莫大なお土産代を予め渡していたのだ。紙袋の山も全てお菓子や小物などのお土産。自分の物は、赤いトランクに慎ましくおさまっている。

「K.Kさんには、これです!」
「あー! そうよそう! これこれ! 息子達がそりゃーもう夢中でね! 異界ウォッチッチ!!」
「お子さん二人にサービスで、日本限定メダルです! チェインさんには……すみません、私は未成年なので、焼酎は持ってこれなくて……明日あたりに郵送で届くと思います。代わりにと言っては何ですが、こちらをおつまみにどうぞ!」
「えっ……ナニコレ、めっちゃ美味しいよ……!」

キラキラと目を輝かせて瓶の中身を開けて口にしたチェインは、そのつまみのあまりの美味しさに悶絶している。酔いが回ってきているようだ。

「日本和牛のしぐれ煮ですよ! 気に入ってもらえて嬉しいです。あっ、これは……ザップさんですね、はい!」
「ひゃー!! まさか本当に買ってくるとは思わなかったぜ!!! おい見ろよ魚類、ジャパニーズゥゥゥ…葛餅!!」

ゲラゲラと笑いながらツェッドに葛餅を見せつけるザップは、自分への土産を人の冷やかしのために使っていて、いささか滑稽である。しかしクズだから致し方ない。

「貴方まさか、ジャパニーズ葛餅の美味しさを知らないんですか?」
「ヒィーッヒィーッwwwあ?知るかよんなもんw」
「全く……食べてみればわかりますよ。アユさん、こんな兄弟子の為にわざわざ、ありがとうございます」
「いえいえ、全然! 美味しいですよ、葛餅。ツェッドさんにはこれですね!」
「うわあ……すみません、高いものを頼んでしまって……とても綺麗な柄ですね」
「とんでもない! まさか、和紙をリクエストされる人がいるとは思いませんでした……大道芸に使うんですか?」
「それもいいですが、折り紙にするのも良さそうですね」
「なるほど、いい趣味をしてるな。ツェッド」

和紙トークを繰り広げるアユとツェッドの間に、いつの間にかスティーブンが現れていた。先程まで着ていたジャケットを脱ぎ、シャツを腕まくりしている。

「お嬢さん、僕にはお土産はないのかな?」
「あっ、そうですねミスタ・スターフェイズ!ちょっと待ってください……」

ごそごそと周囲に散乱した紙袋の中から、アユはスティーブンがリクエストしたお土産を探し出す。

「あ! ありましたありました!」

これですね、と微笑んでスティーブンに渡されたのは、何とも細微な彫刻が施された、箸であった。

「こっちで箸を使うことって、ありますか?」
「それほどないけど、”My chopsticks”というのを持っておきたくてね……えらくスマートな模様だな」
「手作りのオートクチュールですよ、よく見ると模様が”Steven A Starphase”になっているんです」
「へぇ、本当だ! すごいな、ジャパニーズテクニック」

何でも機械で作ってしまうこのご時世に、手作りでこの精密さである。スティーブンが素直に関心していると、アユは赤いトランクから小さな植物を取り出していた。

「あの、ミスタ・ラインヘルツはどちらに?」
「私ならここだ、アユ」

丁度アユの死角になっていたソファーに、クラウスは座っていた。飲み会で酔う様なタイプでもないので、いつも通りにそこにいて、雰囲気を楽しんでいるようにも見えた。というかこれほど存在感のある大男を見失ったのか。やはりアユは、どこか抜けているようだ。

「これ……思っていたのより小さかったんですけど、お土産です」
「なんと……! 手に入ったのかね? 無理を言ってすまなかった」
「いえ、まあ……えへへ」

実はこの緑の小さな植物を手に入れるのが、一番大変だった。シャミアニード日本支部が総力をあげてこの”日本だけに生息する天然100%の植物”を見つけ出し、育て主な半ば土下座するような形で株分けしてもらい手に入れたのは、アユが日本を発つ前日のことであった。幸いトランクの中で安全に保管されていたそれは、保存状態も良く、中々元気そうに小さな葉を広げている。

「難しい種ではあるが、温室で大きく育つように挑戦してみよう。ありがとう、アユ」
「いえいえ、喜んでもらえて何よりですよ。ところでミスタ・ラインヘルツ……」
「む、ファーストネームで構わないが……」
「あぁ、アユ。ちなみに僕も、ファーストネームで構わないよ」
「あ……じゃあクラウスさん、スティーブンさん……このパーティーが終わったら、温室に連れて行って貰えませんか? 挨拶に回りたいので……」
「えっ」

挨拶って、さっきも言ってたあれだろうか? 温室に? スティーブンはうーんと首をかしげた。クラウスも少々困惑したようだったが、別に害がある訳でもないため、快く了承したようだった。
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