Magic Green!!!本編 | ナノ
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06.

「デートみたいだな」
「へ」

その後。"声"のことを気にしつつもなんのことは無く結界を張り終えたアユは、ザップと共に事務所に戻り、そのままスティーブンとふたりでいつものカフェにやってきていた。夏にぴったりなトマトとエビの冷製パスタに舌鼓を打っていたアユは、スティーブンの突然の言葉に、フォークに載せていた干しトマトを危うく落としそうになった。

「君とザップだよ」
「なっ……」
「だってそうじゃない? ふたりで教会って……」

アユの向かいの席でホットサンドとコーヒーを頼んだスティーブンは、広げていた新聞に目を落としながら、なんとはなしにそんなことを言ってのけた。彼の目線は新聞の文字列に向けられている。アユはスティーブンの言葉の真意をつかめないまま、とりあえずの返しをした。

「それは、仕事じゃないですか」
「危険だって僕は言った。それなのに結局ふたりで行っただろう」
「だってスティーブンさん、他に仕事が……」
「ああそうだな。それでも午前中はまだ時間があった」

伏せられた赤銅色の瞳は、目の前に座るアユ自身を捉えることはなかった。が、頬杖をついて新聞を捲る仕草、右手を伸ばしてマグカップを手に取る仕草、そのひとつひとつがひどく不機嫌そうに見えて、アユは困ったように眉を寄せた。

今日の出張……スティーブンさんは忙しいでしょうって断ったのが、そんなにいけなかっただろうか。いや、ザップさんが「番頭と一緒にお前のお守りとか、死んでも嫌だ」みたいなことを耳打ちし続けてきたというのもあるけれど。スティーブンさんは少し働きすぎだ。ただでさえあんなに仕事が詰まってるのに、追加で自分の護衛もだなんて申し訳なさすぎて、ハイお願いしますと簡単には言えなかった。

「そんなにザップと一緒がいいんなら、無理して俺とランチなんてしなくてもいいのに」
「ちょっ……ちょっと待ってください、ランチには私が来たくて来てるんです。それにザップさんとどうこうとか……考えられないですって」
「……どうだかな」
「お、怒ってるんですか? スティーブンさん……」

段々とただならぬ雰囲気を醸し出し始めたスティーブンに、アユは恐る恐る問うてみた。するとぴく、と彼のブルネットが揺れ、ゆっくりと目線を上にあげて、アユ……ではなく、霧っぽい喧騒が広がる窓の外に視線を移した。彼らしくない無愛想な態度に、アユの方も多少の苛立ちを覚えたが、静かにスティーブンの言葉を待つ。


「別にこれぐらいのことで怒ったりしない」
「……怒ってますよね」
「怒ってない」
「怒ってますよ……! 私が良くないことをしたのなら謝ります、だから……」
「怒ってないさ!!」

なんとも2人らしくないやりとりを続けた後に、スティーブンの方が突然大声をあげた。びくりとしたのはアユ、自分自身の声に驚いたのはスティーブン。茶色い瞳を見開いて苛立つ上司をしばらく見つめたアユは、その瞬間ではどうしても説明しきれない気持ちが溢れてくるのをせき止められないまま、条件反射でその瞳を潤ませた。スティーブンは自身の口元を抑えたまま数秒固まり、次にアユが小さく震えているのに気付いて弁明に入ろうとした。

「……っ、なんで、そんな……」
「あ、いや」
「ひどいです、自分勝手です、スティーブンさん」
「アユ、違うんだ、その」
「言ってくれなきゃ……っう……わからないです、でもわからないなりに、貴方のことっ……か、考えて、今日は断ったんです、なのに……」
「アユ、」
「ランチは楽しいです、ザップさんとは何も無いです……! あ、あとこれ……言いたくなかったけど、ス、スティーブンさんが、知らない女の人と街を歩いてるの、見たことあるんです、でもそれとこれとは……べつだから、って、わたしはおもって、なにも……なのに……」
「えっ……! それは本当にちがっ……」
「っう、ごめ、なさ……先に帰ります」

明らかに動揺した様子のスティーブンが立ち上がり、腕を掴もうとしたのをスルリとかわして、アユはカフェを後にした。

なんだかよくわからないけれど、きっと良くないことを言ってしまった。

なぜ涙が出たのか、なぜそんな言葉を口走ってしまったのか、自分でも理解出来ないまま、アユは背後でバタバタと慌ただしく荷物をまとめるスティーブンの方を振り向くことなく……霧の中に身を隠すようにその場を離れた。
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