Magic Green!!!本編 | ナノ
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04.

スティーブンから指摘を受けてからというもの、アユにはひとつの疑念がつきまとっていた。特に出張中。アユはどうしても、その疑念を確信に変えざるを得なくなるのだ。

(……鋭くなってる……?)

その場所は、ほぼ毎日のように結界を張りに来ている教会だった。つい先日、ここで誰かの声を聞いてからというもの、アユの五感はいつも以上に敏感になってきているのだ。聞けばザップの声でも、教会の神父や修道士達の声でもなかったそれは、今思い出してみれば青年のような、魂の感じられない声だった気がする。別に結界の作動に支障をきたしたいる訳でもないし、アユ自身に悪影響を及ぼしている訳でもないので、声自体を言及するつもりはない。
しかし、聴覚や嗅覚なんてものが普段より鋭くなったり、なんでもない物に触れたときにピリッとした雰囲気を感じ取ったり、本当に「サイコメトラー」の様になりつつある自分に、いささか驚いているのだ。
魔法界において、これは良しとされていることではない。ロロカリアン……特に守護魔導に特化したグルズヘリムにとって、感覚が鋭くなることは無意識のうちに体が危険信号を出していることを示している。誰かに命を狙われるだとか、死期が近いだとか。そういう時…死を回避する為に現れる「自己防衛反応」と言ってもいいだろう。それが、アユの体にも現れたのだ。

(うーん……まあここは、HLだしなあ……)

この街の中でアユをグルズヘリムだと認識しているのは、ライブラとシャミアニードの同胞達だけである。確かに漏れが出ている可能性は否めないが、そうであったとしてもライブラやアユ自身のポテンシャルが高いおかげで大抵の敵は追い払うことができる。それに安心しきっていたという訳ではないが、アユも知らず知らずのうちに油断してしまっていた、ということだろうか。HLで死期が近くなるなんて当たり前のことだし、一寸先は闇、明日が来るかさえも定かでないこの街で、ある意味「通常通り」の反応を体が示しただけ。

「おいアユ! 終わったのかよ!」
「! ……すみません! すぐ終わらせます!」

待たされることをよく思わないザップが教会のドア越しに叫んできたことにより思考を今に戻されたアユは、急いでローブのポケットからチョークを取り出した。白と緑の曲線をカリカリと書き続けながら、自分の周りで起こっているかもしれない異変のことについて考えてみる……が、これといった怪しい変化も無く、やっぱり気が抜けてたんだ、と誰もいない教会の真ん中で肩をすくめた。

変化……といえば、ここのところスティーブンさんがいつも以上に甲斐甲斐しい。年が明けてからはや半年以上。相変わらず友人としての付き合いは怠らず、今日だってこの後ランチに誘われている訳だけど。昔(1年前くらい)は出張だって、「さっさと行け」って追い払うような感じだったのに、最近は「ザップだけで大丈夫なのか」とか「俺も行こうか」とか言って直前までついてこようとする。ライブラに入りたての頃より心配されているせいで、自分の戦闘能力や最弱の結界の効果が落ちたのかもしれない、と不安に思ったけれど、それならばいち早くザップさんあたりが感づいて指摘してくるはず。うーん、わからない。もしかしたら、敏感になっているのと関係があるのかな……

そこまで思考を巡らせたところで、ようやく魔法陣を作り終わった。ここまでくれば、一切の感情を排除して、心の中で詠唱するのみ。アユがゆらり、と栗色の髪を揺らして瞳を閉じた瞬間。

(……ジ……欲シイ……)

「……ッ!?」

この前と同じ声が、教会のどこからか小さく降り注いだ。以前よりもか細くなったようなそれは、アユの絶対の集中を揺らがせた。咄嗟に身構えて教会全体を見回したアユだったが、その声の主はそれ以降現れることはなかった。
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