Magic Green!!!本編 | ナノ
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02.

「ほんとにびっくりしましたよ!」

その日は昨年同様、アユにとってかけがえのない1日になった。通常結界を貼り終え出張先に向かっている所で「豪運のエイブラムスが来HLした」という情報を貰い、護衛のザップが事務所に直帰しようとした瞬間に真横のビルが爆散。煙の中から現れたエイブラムスと合流したアユ達は、その後8回程発生したビル爆散に巻き込まれながらライブラに戻った(アユは常に発動している「最弱の結界」のおかげでエイブラムスの"災難"から逃れられた。もちろん2人分の"災難"の餌食になったのはザップである)。
予定より早くライブラに戻ってきたアユを待っていたのは、クラウス、スティーブンをはじめとする構成員の面々だった。アユが赤いキャリーバッグを引いてHLにやって来てから、その日でちょうど1年。レオナルドの提案でプチ記念パーティーの準備をしている途中だったメンバー達は、アユとエイブラムス(と、重傷のザップ)が事務所にやって来たことにたいそう驚いていた。

「いやアユ。びっくりしたのは俺達だって……帰ってくるの早すぎ」
「エイブラムスさんもご一緒とは思いませんでしたよ」
「オイ、インモー&魚類よ!! 俺様の怪我の具合は丸無視かよ!!」

ザップがこれ見よがしにギプスで固定された左腕を掲げたが、2人は何を言うわけでも無くいつも通りジトっとした目で睨む。なんだよ! と駄々をこねるようにレオナルドにつっかかろうとしたザップの左腕をぐっと掴んだのは、ブリッツ・T・エイブラムスだった。

「いででででで!!! おっさん!! い、いでぇ!!!」
「ザァーップ。お前も少しは成長したらどうだ。また賤厳殿に鍛えてもらうか?」
「ぎゃあああ!! それだけは勘弁ッスよぉ〜!! つーか寄らないで! マジで!!」
「全く煩い奴だ。それに比べて、アユ……君は利発で良い魔法使いだ。今後の活躍を大いに期待するぞ」
「いえ、はは……あ、ありがとうございます」

日も傾いていない時間だった為、酒の量は控えめにして、代わりにケーキやピザがテーブルの上に並べられていく。簡単な夕食会のようになった事務所に集まったのは、歓迎パーティの時と同じ位……ではなく、その倍近い構成員達だった。ニューイヤーパーティーやスティーブンの誕生日パーティーですっかり有名人になったアユには、本人も気付かぬうちにある程度の固定ファンがついていたのだ。

「バイト先からもらってきたピザじゃ全然足りないじゃないっすか!!」
「安心したまえ、レオナルド。すぐに手配をしよう」
「これもアユっちの人望のおかげね〜!!」
「ちょっ、旦那、姐さん!! 俺! 俺の怪我の心配は!?」

がやがやと騒ぐ構成員達は、昨年の今日まで新入りだった小さな少女の為に、温かく祝杯を挙げた。ささやかなパーティーになるはずが、これじゃいい意味で台無しだな、と笑うスティーブンは、近くにあった自身のマグカップを手に取ってアユの隣にやってきた。

「まだ1年なのに……なんだか盛大すぎませんか? 私なんかのために、悪いです」
「遠慮と卑下は別物だぞ? それにこの街で1年生き延びたんだ。君の日々の働きっぷりを抜きにしても、十分祝うに値するさ」
「いやぁ、ありがとうございます……あれ、スティーブンさん」
「うん?」
「いえあの、なんとなくなんですけど……」

もしかして昨日、怪我でもしましたか?

アユは本当になんとなく、ただ、スティーブンから少しだけ「血」の雰囲気を感じ取ったから、純粋に疑問に思ってそう口にした。もしこの読みが当たっていたら、アユの数倍は屈強な彼であったとしても、やはり心配だ。スティーブンのその問いにぴくりと反応して、赤銅色の瞳を少しだけ見開いてから、すぐにアユの方から目を逸らした。

「……いや、そんなはずはないよ。まああるとしたら、ここ」

スティーブンはカツ、と自身の靴を鳴らして、にこりと笑った。

「いつだって怪我してるようなものかもな」
「あっ、そうか、そうですよね」
「にしても君、前からそんなに鋭い感性だったか?このメンバーに囲まれてる中で、毎回そんなに敏感なんじゃあ、気が持たないよ」
「あはは……確かに最近、ちょっと変かもしれないです。いつもより感が冴えてるっていうか、なんというか……あっでも、今みたいに見当違いを言ってしまうことだってあるんですよ!」
「感が冴えてる? 女の感ってやつかい?」
「うーん、そうなんですかね?でも私の経験上、自分の感が冴える時って割と窮地に立たされてる場合が多くて……能力と精神状態はリンクするって話は事実ですし。グルズヘリムは特に、ピンチが近づくとサイコメトラーに近い力を発揮することだってあるんですよ」
「へぇ……」
「私はそこまでになったことはないですけど……」

言っている途中で、アユは酒の回ってきたK.Kに連れていかれてしまった。ひとり残されたスティーブンは、ふ、と息を履いてマグカップの中のコーヒーをゆっくりと喉に流し込んだ。

そして、彼女に"見つかってしまう"前にしなければならないことを頭の中で反芻し、クラウスにひとこと入れてからするりとパーティー会場と化した事務所を後にした。
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