Magic Green!!!本編 | ナノ
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12 C.C.

01.
一時期考え込むことの多かったアユも、最近は楽しそうにしている。ライブラの構成員以外にも友人ができたらしく、休日はどこかに出かけることも多くなった。相変わらず仕事熱心で、事務所に毎日貼る結界の作成に手抜かりは無い。出張にだって今まで以上に頻繁に出ていくようになっていた。

「妬けるなあ」

わかるかい? この気持ち……ああ、もちろん君に聞いてる。こんな感情を持ったのは初めてなんだ。形だけの恋愛沙汰ならいつくだって経験してきたけれど、心から突き動かされて……なんてことは無かった。今までよりも人間っぽくなった、って感じかな。生まれ変わった気さえするよ。

「マスター、"これ"は」
「大丈夫。簡単な話くらいはできるさ。そのまま"続けて"くれ」

……外はもう暑くてね。僕が夏は嫌いなのは知ってるよな……見てればわかるか。この技は夏は重宝される。貧血になるのはゴメンだから、無意味に発動するのは渋ることが多いんだけど。

夏といえば、そろそろ彼女がHLにやって来て1年だ。簡単なパーティをするかもしれない……この街に住む輩は、みんな祭り好きだ。何かと理由をつけて飲み騒ぎしたいのさ。アユだってきっと喜ぶ。

となれば、だよ。

「……終わったか」
「恙無く」

彼女を奪いかねない『悪』は、排除しておく必要があるだろう? さぁ、僕の優秀な部下達が手伝ってくれたおかげで、たった今君の黙秘権は無くなった。この魔減剤……

「誰から、受け取った?」


全てを終えた後、スティーブンは外の空気を吸いに建物の外に出た。正確には、空間転移を繰り返した先に存在するとある"場所"からHLに戻った、と言うべきか。夜明け前の魔封街の端の、磯っぽく微かに鉄臭い空気は、スティーブンをかったるくさせた。

「……まあいつもいつも、悪いね」
「なんの」

スティーブンがぽつりと独り言のように呟いた言葉にすぐに返事をした青年は、感情の無い声で事後報告を述べた。

「処理は我々の方で、手抜かり無く。"場所"の別空間への移動も完了しています。パスワードはアインザークが変更中です」
「流石だね。魔減剤の流出ルートは複数、か…1匹ずつ仕留めていく以外になさそうだな」
「新たに数名リストアップされています。内2名は現在も追跡中です」
「残りは?」
「リストアップされた直後から行方不明に」
「ふむ……このリストを共有してるのは、確か……」
「マスター」

自身のスマホにダウンロードされている「魔減剤流出に関する報告書」を開き視線をそこに落としたスティーブンの斜め後ろから、青年が彼を呼んだ。さほど強くもない海風が、下を向いていたスティーブンの睫毛を冷やす。

「どうした? 他に何か……」
「"あのようなこと"は、今後は控えた方がよろしいかと」
「……はは、"間違ってない"んじゃなかったか?」
「間違ってなどいません。しかし貴方自身が手を下す必要はない。あれは我々の仕事です」
「……そうかな」
「そうです」

スティーブンは、しばしの沈黙を得るために、霧のベールの向こう側にぼんやりと光り始めた朝焼けを見つめた。

−−少し「カッとなっている」のかもしれない。

シャミアニード側がいくら管理を厳重にしても流出していく「魔減剤」と、先日クラウスから聞いた「牙狩りとアユ」の事案は、どう考えても繋がっている。「デリケートでない方」から独自の調査を開始したスティーブンとその私設部隊は、これまでに3名の裏切り者の特定−−内訳はシャミアニード構成員、ライブラ構成員、そのどちらにも属していない者−−にこじつけた。それぞれが、持ち出された魔減剤を渡す、さらにそれを牙狼会に流すという役割を持っていたらしく、仲介役の出自に偏りが見られないことに危機意識を抱いたスティーブンは、もう一度双方の構成員全てを洗い出していたのだ。スティーブン自身が牙狩りの組織に属している人間であり、その本部自体がライブラの設立に大きく貢献している存在であるため、幹部達にいきなり発破をかける訳にもいかず、尻尾を掴む方に力を注いでいる。

しかしそれはひどくスティーブンを苛つかせた。こうしてじりじりと敵の下っ端を虱潰しにしている間に、アユが連れ去られてしまう可能性だって大いにある。アユを本部に引き込もうとしている輩の動向に気付くことなく、彼女にひとりでいる時間を作らせてしまった自分にもまた、苛ついていた。結果さえ伴うならば、ゆっくりじっくり算段を立てて、計画的に敵を追い詰めることを推奨している筈の、「常の自分」とは思えない。スティーブンは心の中で苦笑した。

『リストアップされた直後から行方不明に』

『貴方自身が手を下す必要はない』

『あれは我々の仕事です』

「……でもそれなら、尚更……僕も守らなければならないのかもしれないな」
「……それは、」
「『フロスト』。裏切り者以外の方で、"彼"の追跡を頼みたい。後を追えばきっと、行方不明者達が出てくる。ご苦労様」
「……は」

とある人物の名前をスクリーン上からトントンと指でたたいて、スティーブンはまた、前を向いた。守るべきは、きっと彼女だけではない。それを知ってしまったスティーブンは、闇に消えていった青年の言葉をできるだけ頭の隅の方に押しやった。そして太陽が全て昇りきるまで、ずっとその場所に立っていた。
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