Magic Green!!!本編 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
11.

「……本気か!」
「スティーブン、我々は……」
「愚行だぞ! クラウス!」
「気持ちは分かるが」
「牙狩り本部の連中は……何考えてる!? アユを失ってしまえば、果ては世界破滅の……」
「スティーブン」

落ち着いた深い制止の声が、二人とギルベルトの他に誰もいない執務室に響いた。その声にハッとしたスティーブンは、口元を抑えてクラウスに謝罪を入れる。しかしその目は狼狽えたように泳いでいた。

「すまない、クラウス……いや、でもその話は」
「勿論、ライブラもシャミアニードも承服するつもりはない」
「そうか、よかった……」

屈強な二人のリーダーが提案を呑む気がないのならば、ひとまず安心できる。ほっと胸をなでおろして、スティーブンはふと、クラウスのその表情に曇りが見えるのに気がついた。今更どうこう言うつもりは無いが、やはりクラウスは恐怖を感じる顔つきをしている。

「……クラーウス、また胃に穴をあけるつもりかい? さっきはちょっと……僕も、カッとなっただけさ。いくらだって協力するよ」
「ありがとう、スティーブン。アユを牙狩り本部に引き渡すことは、どうしてもできない……だからこそ、今後は更に慎重に、綿密にことを進めてきいたいのだ」
「なるほど。こんなことを考えてるのは上役の一部だな……心当たりならまぁ、いくつかある。彼女にはこのことは知らせないんだろう?」
「無論、そのつもりだ。シャミアニードとも連携しつつ、本部の様子を伺うことを先決している。マダムもお怒りのようで……先方の思惑通りになることはないだろう」
「なら、いいんだよ。安心した」

安心したのは確かだ。しかし、一時的に。スティーブンは穏やかな顔をクラウスに見せたまま、心の中でため息をついた。

組織としての"牙狩り"は軍隊だ。上司の命令は絶対。時に彼らに怒号を浴びせられながら、時に使えない部下に怒号を浴びせながら泥臭く吸血鬼を追いつめる……傭兵部隊に近い。
しかしその上役達は、末端で血汗を流して働く者達を芯から理解することはなく、即物的な欲や利益や危機感に押されて理不尽な命令を下す。ライブラが無事設立され、今まで表にその情報が出回ることなく活動を続けられているのは、牙狩り本部の上役……一部の人間の後押しあってのことではあるが、それにしても今回の提案(という名の命令)は度が過ぎている、とスティーブンは思っていた。

アユはライブラ、シャミアニードのただの構成員ではない。その逸脱した能力は、エギンウイルスへの打開策を見いだせていない現時点では世界を救いも滅ぼしもする代物である。しかしそれを持つアユは、言ってしまえばか弱い少女。精神的な負荷が魔法や結界の出来不出来を左右するというのに、上は何を考えているのだろうか。何も考えていないのかもしれない。個人的な感情をしょっぴいても、引渡し後の彼女の行く末を思うとはらわたが煮えくり返る。

「エイブラムスさんに連絡は?」
「先日済ませている。急遽HL入りするそうだ」
「えっ……まぁ、四の五の言ってられないか」
「うむ。スティーブン、この件に関しては君に動いてもらうことも多くなるだろう。悪いがその時は……」
「悪い? おいおい、これが嫌そうな顔に見えるかい? 勿論、任せてくれよ」

スティーブンはそう言って微笑み、窓から霧っぽい街を眺めた。アユを引渡すことは、できない。その思いはライブラもシャミアニードも同じだ。この半年で、彼女はここまで……双方の組織、特にライブラにとって、なくてはならない存在になった。

外では菫が咲き始めているだろうか。この街に、この秘密結社に咲く菫を守るのは、間違いなく我々、そして果てはこの俺だ。スティーブンはクラウスにもギルベルトにも見えない方を向いて、その赤銅色の瞳に闇を宿した。


(………真実ガ、欲シイ………)

「……?」
「おいチビ! 結界は張り終わったんだろ? 帰っぞ」
「あっ、ハイ! 今出ます」
「ったく俺もよ、好きでお前の出張に付き合ってるわけじゃねぇんだぞ〜って……おいコラ! アユ!」
「ザップさんザップさん、今なにか聞こえましたよね?」
「あぁ!? あ〜……俺の、腹の虫が………鳴った!! 飯行くぞ!」
「えぇ〜? さっき食べたんですけど……」

To be continued…
prev next
top