Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
10.

アユとオリビアは、それから数分もしないうちに打ち解けた。HLのレジャーをほとんど知らないというアユに呆れた様子のオリビアが、「それじゃあとことん案内してあげる。観光客みたいにね!」と半ば強引にアユの腕を引っ張って霧深い街の中を連れ回し始めてから、そろそろ2時間が経とうとしていた。

オリビアは、今年で23歳とは思えないほど博識で、快活な女性だった。

「シャミアニードの人間があまり来ない場所で、とっておきの穴場なんかはね。バッチリ抑えてるの」

そう言って未成年のアユを四六時中営業中のビアガーデンに連れていったり、女の子らしい(けどちょっと怪しい)雑貨屋に連れていったり、途中で有名なカフェチェーン店でティーブレイクをしたり。日本の高校での友人同士の付き合いもそこそこに修行に励んでいたアユにとって、年の近い女友達と、普通の女の子と同じように街をめぐって遊ぶ、なんてこと自体が初めてで、訪れる場所、音楽、食べ物飲み物…全てが新鮮な感じがした。

かと思えば、

「66年史の『リリード覚醒事件』……私の学生時代の研究内容よ」
「リリード覚醒事件!? あの、純潔派が役所に立て篭って2年半分の戸籍を抹消させたっていう……随分昔の話よね……?」
「……まあね。資料を読んでいると、当時の混乱していた様子が鮮明に浮かび上がってくるの。私自身がこんな感じでひねくれてるから、そういった類の事件には興味があるのよ」
「なるほど……あっ、じゃあ、84年史の『アイク・バトラー事件』は!?」
「"腐り屋"アイク、ね。勿論抑えてる。あれはグルズヘリム絡みだったもの」

こんな風に専門分野について公園で語り合う、なんてこともあった。アユはまだ高校生ではあったが、知識として殆どのロロカリアン史に大まかにではあるが目を通しているし、オリビアも魔法使いの歴史(特に近世)の詳細に詳しいしで、話は盛り上がるばかりだ。お互い、ロロカリアン内での友達がいないので、こういった話をしっかりできるような機会がそもそも無かった、というのもある。

そして。

「グルスへリムである自分が、どうしても許せないって、今でも思うの……」
「私もね。もっと普通の家系の子供だったら、どんなに良かっただろうって思うわ」
「……考えてもしょうがないことだから。気にしないようにはしているんだけど」
「その通りね……」

ロロカリアンは、強い縄張り意識を持つ一族である。なぜその様な性質を持っているのか、なんて誰にも分かりはしないが、グルズヘリムは、アユが、そしてエギンウイルスが現れるまではロロカリアン内の全ての活動の蚊帳の外に追いやられていたし、オリビアの様な特殊な由縁を持つ同族は敵意にも近い差別意識を抱かれている。一般人にも有りはする性質だが、きちんとした教育を受けた『正統なロロカリアン』の数は減少傾向にあるため、近年はその縄張り意識にも拍車がかかってきているようだ。

アユとオリビアは共に、同族から疎まれる存在で。どうしても吐き出せない何かはお互いの心の奥深くにとどめておきながらも、それぞれ自分の抱える闇を少しずつ、打ち明けていく。それはアユにとって、そしておそらくオリビアにとっても……今までにないことだった。

「女の子で、歳が近くて、同じ魔法使いで、その魔法使いから疎まれて……って、そんな存在、中々……いや全然、いないもの」
「友達はいるけれど、あなたみたいな人ははじめて。オリビア、今日は本当にありがとう。最近色々考えることも多くって……ちょっと自分を見失ってたかも。また近いうちに会える?」
「勿論会えるわ! あなたはライブラ、私はシャミアニードのHL支部にいるんだから……お察しの通り、大した業務は貰えないしね。いつでも暇よ」

アユの時間が合うときに、文字通り飛んでくるわ!

そう言って白い歯を見せニカッと笑うオリビアは、アユの頬に軽くキスをして霧の向こうに消えていった。アユはオリビアの姿が見えなくなっても、右手をひらひらと振り続けていた。
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