Magic Green!!!本編 | ナノ
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10.

「……アユ?」
「……私?」

今度は一気に、アユの元に視線が集まった。アユ自身も、ここで自分が出てくる理由がよくわかっていない。

「まぁ、グルズヘリムじゃな。グルズヘリムの張る守護魔導による結界だけは、エギンウイルスを退けるのじゃよ。そしてこのアユは、そんなグルズヘリムの中でも天下一品の才能の持ち主でもある」
「! それは……」
「ライブラにとってこれほど良い守護魔導士がおろうか? 確かにアユは役立たずな少女に見えるかもしれんが、彼女が日本で成人を迎えるまで待っていては、その前にここ自体が消え去ってしまうじゃろうな」
「おばあちゃん待って、私……私がそんなに重要な役割を貰っていたなんて、知らなかった……」

アユは半ば泣きそうになりながらゲルダ婆に言った。普通の結界を張るだけなのだと思いきや、自分の守護魔導の腕前にライブラの、果ては世界の命運がかかっていることになるのだ。これではロロークを使おうが使わまいが、世界崩壊の片棒を担いでいるのに変わりはないのでは……
やれ困った、と声に出したのはゲルダ婆である。

「お前は強い子だけれど、プレッシャーにはとことん弱いからね……できれば話さずにいきたかったんじゃよ」

情緒は結界の出来不出来を左右する。それはアユも十分承知していたことだった。しかし、これは重すぎる。

「まだ話は終わっておらんよ。さて、ここまではライブラにとって、さほど悪い話ではなかったろう。むしろ飛び上がって喜んで貰いたい位じゃ。もしやするとこのアユ、500年に一度ほどの逸材やもしれぬからのぅ」
「ご、ごひゃくねん……」
「そうさね……おやまあ、また面白い子ネズミが増えたと思ったら、そこの若造、神々の義眼保有者かい?」
「あ、ひゃ、はい! ……レオナルド・ウォッチでしゅる」

500年という、時の長さに思わず驚きの声を上げたレオナルドに気付いたゲルダ婆は愉快そうに微笑み、その微笑みのあまりの風格にたじろいで、レオは盛大に噛んでしまった。ゲルダ婆はにやりと笑って、話を続ける。

「そして、じゃ。いまやグルズヘリムは、エギンウイルスに対抗出来る唯一の守護魔導士となった訳じゃ。謎は多いがね。異界でさえも解決できない程のウイルスを、完全にシャットアウトできるヒューマー……多くの闇に潜むもの、果ては異界人、血界の眷属でさえも、今はグルズヘリムを得るために必死じゃ」
「うそ……それ、本当なの!? おばあちゃん!」

アユには、シャミアニード日本支部で共に学んだグルズヘリムの仲間が数人いた。世界中を回っている時だって、ロロカリアンからあぶれたグルズヘリムに、とてもよくしてもらっていた。今、その仲間達が、追われている……?
目眩の様なものに襲われ、アユは思わず床にへたりこんだ。それを心配して駆け寄るレオナルドとK・Kを見やりながら、スティーブンはまずいな、と口元を覆った。
エギンウイルスについて、知らないことが多すぎた。確かにここ数ヶ月の間に、ライブラに張り巡らされている何重もの術式に、立て続けに綻びが見られたり、小さな穴が空いていることがあった。術式全てに穴があいてしまえば、たとえそれがどんなに小さいものであっても、物理的、電子的、さらに魔術的な介入を許してしまうことになりかねない。チェインや時には私設部隊までも動かして、必死で原因解明に務めていたのに。エギンウイルスという名前と、大まかな特徴しかつかめていなかったのだと、悔しさと無力さを呪ってスティーブンは手の内で唇を噛んだ。

「そうさね……しかしグルズヘリムは類稀なる強運の持ち主でもある。今はシャミアニードが総力をあげて彼らを守っているよ。しかしアユ。お前はちと、その力が強すぎる」
「強すぎる?」
「そうじゃ。シャミアニードでさえも、お前が本気を出せば手出しは出来まい。これはお世辞じゃないよ。シャミアニードの現リーダーが言うのだから、間違いない。つまり……それだけお前は他の勢力に狙われている」
「なるほど。理解いたしました、マダム・ディートリッヒ」

それまでゲルダ婆の向かい側のソファーに腰掛けていたクラウスが立ち上がった。ご老体のお帰りを察したのである。

「ふぉふぉ。ちと気付くのが遅すぎるわい。アユが自分の身を完全に守りきれるようになるまで、よろしく頼みますぞ」

紫の椅子がふわっと浮き上がり、そのまま出口の扉へと向かってゆく。

「お、おばあちゃん! 待って……! 私、どうすればいい? 心配よ、何もかも……」
「ひゃひゃひゃ! 何を心配することがあろうかね。これだけの超人達に守られて、自分自身でもここを守って。お前ほど世界に貢献しておる人間はそうはおらんよ。頑張りなさい、」

アユ・マクラノ!

そう笑って、ゲルダ婆は扉の向こうに消えていった。


「凄い迫力でしたね……あれが、ゲルダ・ディートリッヒ……」
「うむ、久々に強者と相対した」
「素敵なマダムって感じねぇ……」
「お変わりないようで何よりでした」
「パッと見は穏やかなおばあ様なんだがな……」
「そうは見えても、おばあちゃんはまだまだ現役ですよ。この前インドの血脈門が開いた時も、賤厳様と昔話に花を咲かせながらBBを追い詰めなさったとかなんとか」
「…………」
「あー、まじかー、それはすごいわー」
To be continued…
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