Magic Green!!!本編 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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07.

『そういう訳なんだ。ただでさえ遅れてたっていうのに、本当にごめん』

久々にシャミアニードから連絡があると聞いてやってきてみれば、画面越しでもわかるほど申し訳なさそうに額を机に押し付けて詫びるハインリヒが写り、アユは少し驚いた。なんでも、完成したかと思われていた"MG試薬"に予想外の不備が見つかり、急遽作り直しに入ったのだとか。そのため、年明けに予定されていた"実験"は先送りになったらしい。

「全然いいよ、新しいことをする時は慎重にいかなきゃ」
『それはそうだけど……』
「私の為を思って、作り直してくれてるんだよね。真面目で優しいお兄ちゃんらしいわ」
『……ごめん』
「謝らないでってば! こういうのは急いだってしょうがない、でしょ?」

ハインリヒとの通話を終えてから、アユは真っ黒になったテレビ画面に写る自分の顔を見つめて、事務所にいるメンバーの誰にも見えないようにため息をついた。

どうやら最近少し疲れているようで、自分の存在意義について考えることことが多くなっていたアユにとって、この知らせは中々辛いものがあった。結界を張る仕事にやりがいを感じていない訳ではない。しかし、自分はこの街にいる唯一のグルズヘリムであって。もっと、他に。自分にしかできない仕事があるはずだ、とそう思わずにはいられなかった。

(MG試薬の実験なら、きっと……)

自分自身にようやく、「よくやった」と言ってあげられるかもしれない、と思っていたのに。

「仕方ないさ。この状態のままで服用していたら、君の記憶は抹消されていたかもしれないらしい。ホラ、資料」

テレビ画面の前でぼうっとしていたアユの背後からやってきたスティーブンが、10枚ほどにとめられた「MG試薬の不備に関する資料」を見せて、そのままアユの横に座った。

「……すみません、スティーブンさんの仕事にも影響しますよね」
「僕の? いや、そんなことはないよ。"パートナー"の件は全く重荷じゃない」
「……」
「おいおい、君らしくもないぞ。中止になった訳じゃないんだ……前向きに行こう。なにか気分転換になることをしてみたらどうだい? 散歩に行くとか……」
「散歩……ですか?」
「実際君はよくやってるよ。それにほら……去年のクリスマスの件で君の実力を再確認してから、僕達も少し考えてさ……"出張"や任務の時以外で、君が"最弱の結界"のレベルをもう少し上げられるなら、ひとりで街を歩いてもいいってことにしたんだ。もちろん、GPSは必須だけどね。君より戦闘能力の低いレオナルドだってそうしてる」
「でも、もし何かあったら……みなさんに迷惑かけます」
「はは……今日はやけに暗いなぁ。大丈夫! これは君の兄さん……ハインリヒから頼み込まれたことなんだからさ」
「えっ、お兄ちゃんが!?」
「実験の遅延のせいで塞ぎ込んでるだろうから、ひとりでゆっくりする時間を作ってやってくれ、ってね。さっき電話が来たよ」

クラウスは乗り気じゃなかったみたいだけど。スティーブンはそこまで喋ってから、アユの方に軽くウインクをした。自分より一回り上の、数々の死線をくぐり抜けてきた精鋭の上司が、自分のことを評価してくれているのは素直に嬉しかった。ずっと心にひっかかっている何かは、取れないままではいるけれど。

「うーん、それなら……」
「勤務時間外なら、どこにだって行っていいさ。危険な場所はNGだけど……公園で一息つくとか、図書館に行ってみるとか」

そこまで言ったところで、KKに呼ばれたスティーブンは、さっと立ち上がりアユの頭をぽんぽんとなでてから、自分のデスクに向かっていった。アユは、離れていく大きな背中の向こうの大窓から見える、ヘルサレムズ・ロットの街並みを見つめた。

(気分転換、か)

この街に長居する殆どの者は、その途中で必ず自身の不甲斐なさに落ち込み、途方に暮れるのだと。いつの日かレオナルドが言っていたのを思い出して、アユも立ち上がり事務所の扉を開けて街中へと向かった。
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