Magic Green!!!本編 | ナノ
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05.

牙狼会の怪しい動きに緊張を覚えながらも、秘密結社ライブラの日常は揺るがずに続いていた。いつも通りに各々がそれぞれの時間で出社し、出動し、退勤していく。チェインが人狼局の諜報員を連れて暴力団関係をあたったり、クラウスがツテのあるらしい地下闘技場に自ら足を運んだり、レオナルドが熱発する寸前まで街で義眼を開き続けたり。年齢、性別、人種も種族も超えてそれぞれの持つ能力をフルに使って日々を生きている。

「アユ」

そんな中で自分は、何の役に立っているのだろう。この街では至極貴重なグルズヘリムであるアユ・マクラノは、ライブラ本部をエギンウイルスから守る為に毎日結界を張り替えている訳だが。目に見えない功績だと賞賛を貰っても、それは同情まじりの励ましにしか聞こえない。

「アユ? 聞いてるのか?」

事務所によく顔を出す牙狩り達は、トップクラスの実力を持つ猛者ばかりだ。大きな怪我こそするが、死の闇に沈む者はほとんどいない。それでも、人手が足りないのは目に見えてわかる。戦闘員が必要だ。もっと効率良く、迅速に、敵を排除できる人間が。

「アユ」
「っう、え!? はい!」

ぺち、と優しい平手をくらって、アユはハッとした。相当思いつめた顔をしていたらしく、向かいの席に座っていたスティーブンはびっくりしたようにアユの方を見つめている。

「どうした、君らしくもない」
「あ、すみませ……」
「ここのところ皆疲れてるからな……デザートに甘いものでも食べたらどうだい? 僕が奢るよ」
「ええ!? いやいいですよ、自分で払います。あ、すいませーん! あの、これください」
「……食べはするんだね」

2月に入り、刺すような寒さにも慣れてきたおかげで、2人はいつものカフェのほとんど人のいないテラスでランチをとることができていた。一緒にランチなんて、最初こそ抵抗のあったアユだったが、スティーブンの方がアユの提示した「自分の分は自分で払う」という約束を固く守ってくれているため、本当に対等な友人として今はすっかりくつろげていた。そのはずなのに、最近はそんな大事な時間でさえもついつい考え込んでしまっていけなかった。

「魔法使いに疲れは良くないですから」
「うわ、またすごく甘そうなのを……」
「食べますか?」
「いや、近頃そういうのは食べられなくなってしまってね。歳かなぁ」

注文すればすぐに運ばれてきたストロベリーパフェを訝しげに見つめながら、スティーブンは笑った。プライベートの彼は、意外にもよく笑う。先日の夜の海でのスティーブンを知ってから、アユは前よりも彼のことを知ろうとするようになっていた。この人は私の上司で、私よりずっと大人だけど。辛い思いをすることだって多いだろう彼がリフレッシュできるのなら、それは友人である自分にとっても嬉しいことに違いない。

「おいしいのに」
「はは……見るだけで充分だよ」
「……なんか」
「ん?」
「いえ、いい友人を持ったなーって、改めて思って」

生クリームの一番上に乗っている赤い苺をぱくりと頬張ってから、アユはそう言った。それは心からの言葉だった。お互いにとって最高の状態だと、この時は本気でそう思っていた。だから、それを聞いたスティーブンの何とも言えないような顔を見て思わず首をかしげてしまった。

「……あー、うん」
「……? スティーブンさん?」
「いや本当に、その通りだよ……僕もね。さ、そろそろ時間だ。早く食べなさい」
「え! もうそんな時間ですか」

まだ半分も食べきれていないストロベリーパフェを急いでつつきはじめたアユに微笑んでから、スティーブンはHLにしては静かな景観に目を移した。

「……」

なんというか、道を誤った気がする。

そろそろ進展が欲しい、ということで先日アユをドライブに誘ったのだが。そこでつい零した本音のせいで、彼女にものすごく同情されてしまったらしい。「これからもずっと私がスティーブンさんの"友達"ですよ」とかなんとか言われた日には、嬉しいよりもしまったという感情の方が上回っていろんな意味で死ぬかもしれない。

(何やってるんだ、俺は……)

先を急ぎすぎて空回りしてしまっては元も子もない。大丈夫、まだアユは俺のことを恋愛対象から除外はしていないはずだ。ここは慎重に、確実に距離を詰めていかなければ。

「食べました! 美味しかったですよ」
「え? はやいな……ウン、それはよかった。じゃ、出ようか」
「はい!」

あれこれ考えているうちにパフェを完食してしまったアユと共に、スティーブンは気持ちを切り替えることを決意しながらカフェを後にするのだった。
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