Magic Green!!!本編 | ナノ
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04.

"牙狼会"という組織について、いくつか語っておくべきことがある。

「名前が気に食わねぇなぁ」

その名は"牙と狼を擁する会"とも読める。大部分が牙……いわゆる"血界の眷属"と、闇の世界で圧倒的な力を見せる"屍狼"により構成されている。世界の均衡を崩す為に暗躍する秘密結社。ライブラやシャミアニードとは正反対に位置する組織だ。

「珍しく私と意見が合ったわね、クソ猿」

腹立ただしいことに、この組織の概要も規模も一切検討がつかない。彼らの情報はどんなに小さなものでも掴むことができず、ひとたび噂があがれば言い値がつくほどのものだ。同じ形態の組織としては同等かそれ以上の機密保持率&隠蔽率。尊敬してやりたいほどに、その全てが固く閉ざされた扉の中にある。

「テメッ……あ〜? 狼ってお前雌犬ぅ……まさか秘密結社掛け持ちしてんじゃねぇよなぁ?」
「馬鹿言わないで。"人狼"とこの"屍狼"は、そもそも発生のルーツが違うわ。教養のないクズは黙ってなさいよ」

"屍狼"と呼ばれるその種は、その名の通り"物体性の無い生物=本体"が人間の屍を得て動くものである。乗っ取られた屍は生きていた頃と同じように生活を取り戻し、一般社会に溶け込む。スペックも生存時と変わらず扱えながら、本体の特殊能力を使用でき、大きな外傷が無い限り不死となる。そして異界と現世を行き来する力を持つのだ。この"屍狼"の寝床に"不可視の人狼"の遺体が使われていた時代があり、それによりこの名がつけられたともいう。希釈の能力を得た屍狼は、恐らく長い時が経った今でも裏世界で活動を続けている。

「僕も前々から気になってはいましたけど…情報がないのであれば、どうしようもないですね」

狂乱続きのHLにおいて、組織や人などは相当の悪事を起こさなければ名を馳せることは無い。牙狼会はそんなこの街で悪の正道を突っ走る極悪秘密結社として裏でそれはそれは騒がれているのだから、まあ"そんな所"なのだ。一見何でもない事件でも、彼らの名がちらついただけで手を引く、という公的機関は多い。

「ヤバいオーラの人はいくらでも見かけますから……血界の眷属ならともかく、一瞬で"屍狼"を見分けるのは難しいっす」

屍狼は人間の屍をその独自の術式で正常の姿に戻す。"そう見せる"のではなく"そう戻す"のだ。偽りの姿でありはするが、生きていた頃の物体として完全に再生されている。そのためレオナルドの義眼を持ってしても、その本質を見抜くことは難しいのだという。もともと魑魅魍魎どもが行き交うこの街だ。屍狼のような普通でないものは五万といる。

「術式……私の専門分野は魔法ですけど、ある程度のものならば対応できます……でも屍狼のそれはパターンが解析されていません。我々との接触回数が極端に少ないから、データが無いんです」

グルズヘリムである前に魔法使い一族のロロカリアンでもあるアユは、やはり特殊な術式を扱う屍狼について多少の知識はあるようだ。が、屍狼は一般人と見分けのつかない異形であるため、そうさせている根源の"本体が使う術式"の解読は進んでいない。

「でもまあ、最近きな臭い事件が多いものね……だいぶ活動的になってきたんじゃなぁい?」
「そのようでね。こっちも慎重に調査を進めてたんだ……そしてようやく、その切れ端をつまんだ」

スティーブンの手に文字通りつままれていたのは、手のひらに乗るほどの大きさのパックに入った少量の液体で、紫のものと赤いものとでふたつ。ぴっちりと止められていたそれは、いつの日か、ハインリヒが構成員に見せた薬と同じものだった。

「まっ、魔減剤……!?」
「何をしようとしていたのかは明白じゃないけど……とりあえず、ライブラ的にも穏やかではいられない事態に陥ってるわけさ」
「諜報を進めればそれに比例して伴う危険も増加する。シャミアニードと共に総力を上げて、慎重かつ正確にことを調べる必要があると我々は判断した。各自に合わせて渡した資料の通り活動してくれ給え」

クラウスの指示が出て、この日のミーティングは終わった。多くの者は何も知らないまま。数名は何かを思いながら。渡された資料を手にそれぞれの時間は過ぎていった。
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