Magic Green!!!本編 | ナノ
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02.

「さぁ、ランチに行こう」
「疲れたな〜……あ、気晴らしに映画に行かないか?」
「ん、買出し? いやあ……僕も丁度、外に用があって。護衛ついでに付き合うよ」

「仕事も落ち着いたし、そうだな……ドライブに行かないか? 急に海が見たくなってさ」

(……いやいやいやいや!!)

日は当の昔に暮れて、ライブラの事務所にも明かりがついてからしばらく経った頃。それまでデスクにいたスティーブンが軽く伸びをして立ち上がり、温室から帰ってきたアユに声をかけた。が、アユはその言葉を聞くやいなや硬直してしまい、引きつった笑みを見せるだけだ。

「どうした? アユ」
「いえっ、その……いやあの」
「鍵締めるぞ、ほら早く」
「う……はいっ」

有無は言わせないといった様子でちゃっちゃと書類を片付けジャケットをはおり、車のキーをスラックスのポケットに入れて事務所を出ようとするスティーブンに、アユはなにか言おうと口を動かしてからそれを諦め、トボトボと後を追った。
スティーブンの車に乗り込んでからも、アユは何とも言えない気持ちの中に浮かんでいる気分だった。

最近……なんというか、押しが強い。

ランチはもう、週に3日のペースで一緒に行っているし、彼が勧めるのはどこもハズレがなく美味しい店ばかりだ。先日の映画を断らなかったのだって、アユの好きな監督と俳優がタッグを組んでいる人気作で、公開前から気になっているものだったから。一緒に外出したのは、元々お互いに外で済ませるべき仕事があったからだった。
まるで、"アユが確実に断らないのを狙って"誘っているようにも思えるここ最近のスティーブンの猛追に、アユはタジタジだった。


「海って言ってもまあこの遅い時間だし、街からは出られないから……それっぽいビーチに行ける訳ではないんだけどね」
「……はあ」
「たまにこんな気分になるんだ、疲れてる時は特に。何か途方もなく大きなものを見たくなる」
「……ス、スティーブンさん」
「ん?」
「あー、あの……いやなんでも、ないです」
「そう? ほら、もうすぐそこだ……よかった、久しぶりにスンナリ道を通れたな」


彼と共にどこかに出かけることが苦だと思ったことは無い。スティーブンは仕事のことはなるべく話さないようにしながら(アユが気を使ってしまうから)、ユーモアのある話をしてくれるし、アユの話だって興味を持って聞いてくれる。30代の友人は初めてだったアユも、年が明けて数週間も経ってしまえばすっかりスティーブンと打ち解けていた。そうは言っても職場では上司だし、まだまだ10年来の友人ほど気の置けない相手になった訳ではないけれど、アユの中でスティーブンとの距離はすごく近くなっていたし、軽い悩みなら打ち明けられる程度には仲良くなっている。

なっている、からこそ。

(どういう心境で、ついていけばいいんだろ……)

今の2人の関係は"友達"以外の何物でもない。けれど、お互い何となく避けあっていた夏頃は勿論、アユが日本に一時帰国するまでの1ヶ月、クリスマスイブまでの数週間……そのどれよりもずっと……確実にスティーブンは積極的だ。
アユは日本に帰っていた時、毎日のように画面越しに彼と顔を合わせていたことを思い出して、そしてそのついでに本来思い出すべきではないことも記憶の中から引っ張り出してしまい、車窓の外に視線をうつした。
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