Magic Green!!!本編 | ナノ
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09.

「おばあちゃん!」
「おや、アユ。ちゃんと着いていたかい。よかったよかった」

アユが駆け寄り、老婆に抱きついた。ギルベルトもすぐさま側へより、室内へと案内する。

「ふぉふぉ、アルトシュタイン殿、ご機嫌よう」
「マダム・ディートリッヒ。お元気そうで何よりでございます」
「何をおっしゃる。足が使い物にならなくなってからというもの、退屈で仕方ありませんわ」

ほのぼのとした老人同士の会話にも見えるが、それ以上にお互いが発するただならぬ貫禄に圧倒され、ソファーに腰掛けていたレオナルドも立ち上がって場所を空ける。

「マダム・ディートリッヒ。本日はわざわざこのような所まで足を運んで下さり、感謝申し上げます」
「ふぉふぉ……」

そう悪戯っぽく笑って、ゲルダ婆はゆっくり口を開いた。

「……して、どうかね? 孫娘の様子は」
「お、おばあちゃん……まだお会いして数分しか……」

突然の質問に困惑するアユをすっと静止して、ゲルダ婆は言葉を続ける。

「未だに、考えあぐねておるかね? どれ、正直に答えてみなさい」
「やはり……この街は彼女のような可憐な少女には危険すぎるかと……」
「ふむ」
「彼女の実力を怪しんでいるのではなく、純粋に。アユは紛れもないレディです」

レディ、という言葉にアユは照れくささを覚えた。そんな言葉を使われるほど、自分は大人でもない。

「孫娘殿を大切に思うのならば、せめてあと2年。お待ちになってはもらえないだろうか、マダム・ディートリッヒ」

キラリとクラウスのメガネの奥の緑の瞳が光ったような気がした。ゲルダ婆はほぅ、と一息ついて、ある言葉を発した。

「エギンウイルス」
「……!」
「そなた達もそこまで愚かではなかろう。水面下で事は動いているのじゃ。いずれエギンは、ここを滅ぼすぞ」
「失礼、ご老体……スターフェイズです。貴女は……エギンウイルスのことをご存知で?」

スティーブンはエギンウイルスという言葉に突き動かされるように話に割って入った。ゲルダ婆は、おや、と懐かしそうに目を細めて言った。

「おお、おお。そなたとは、大崩落以降会っておらんかった。ミスタ・スターフェイズ。エギンのことは、今なおこちらでも研究を進めているところなのじゃよ」
「というと?」

室内の誰しもの視線を受けるゲルダ婆は、仕方あるまい、と重々しく語り出した。

「エギンウイルスは、異界産の新種ウイルスじゃ。主な特徴は、建物や地域に張り巡らされている術式の破壊と、書き換え。ここライブラも、すでにいくつかの術式がその餌食になっておろう?」
「こちらでも調べを進めていましたが、やはりそうでしたか」
「シャミアニードの情報収集力とネットワークの広さを舐めるでない。エギンウイルスの前では、ほぼ全ての術式は役立たず同然じゃ。ライブラのようなトップシークレットの一室でさえも、エギンにかかれば数ヶ月、もしくは数週間で術式に穴が開く。そして最も怖いのは、そこからの”書き換え”じゃ」
「ウイルス自体が新たなバグとして、それまであった術式の中に組み込まれると、いうことですか」
「そのとおりじゃ。さすがはライブラの副官、察しが早くて助かるのぅ。さて、エギンウイルスは大変強力でありながら、新種ということで異界の方でも対策を練っている真っ最中だとか。そこで出てくるのが、お前じゃ、アユ」
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