Magic Green!!!本編 | ナノ
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12.

「Ladies and gentlemen! 皆さんお待ちかね! ニューイヤーパーティには欠かせない余興の時間よー!!」

K.Kがマイク越しに叫び、構成員達は歓声を上げながらバーの一角に用意されたステージに向かった。その中心では、タキシードに身をまとった来賓、ハインリヒが、なにやら呪文を唱えながら手を動かしている。レオナルドとザップ、ツェッドは客席の一番前に陣とってどっしりと座った。そこは年長者に譲る場所だぞ、と一言言ってやろうかと思ったスティーブンだが、そんなことでやっかむ人間がいるような秘密結社ではない。楽しんだ者勝ちなニューイヤーパーティなんだから、好き勝手させとくか、と客席には座らずに後ろの方で見物しておくことにした。
アユはK.Kに連れていかれたまま、最後まで姿を見せることは無かった。

「昨年の”ザップ一気飲み”どうだったかしら? んも〜思い出しただけで腹筋よじれちゃうわよね!」
「お、おい姐さん!! それ言っちゃダメだかんな!!」

ザップが立ち上がって食いつき、周囲にもドッと笑いが起こる。そのうちにハインリヒの詠唱が終わり、彼は舞台の端に設置されていたグランドピアノの椅子に腰掛けた。ん? 彼が余興をするのか? 来賓なのに?

「今年はこのK.Kとチェインで、最高のステージを用意させてもらったわ! もはや余興なんかじゃない……こっちがメインイベントよ! 耳かっぽじって聴きなさい!」
「チェインさん! ちょっ……こんなの恥ずかしいですって……!」

K.Kのド派手な前説に隠れて、アユの叫び声が聞こえた気がしたスティーブンは、首を上げて人混みの向こうのステージ袖を覗いた。ライトブルーのドレスを着たチェインがアユの腕をひっつかんでいるようだ。彼女の細い腕だけが、こちらからは確認できた。

「大丈夫。かわいいよ、ガンバ!」
「ライブラ1の歌姫、アユ・マクラノのスペシャルライブ!!」

カッ、とステージ中心にライトが当てられ、袖からおずおずと出てきた少女……アユは、先ほどのローブを着てはいなかった。優しい薄紫基調のエンパイアドレスを身にまとい、栗色の髪を編み込んでその中に色とりどりの花をさしている。慣れないヒールは落ち着いた藍色で、歩く度にドレスの端が煌めいて揺れた。拍手喝采の観客達にびっくりているようだ…レオナルドが手を振ったのを目の端に捉えたらしい、ぎこちない笑顔で手を振り返している。

ゆっくり歩いたアユがステージの中心にたどり着いたと同時に、ハインリヒが鍵盤に指を乗せた。お互いに一瞬だけアイコンタクトをとって、柔らかいピアノの音がバーに響き始める。その間に、チェインによって観客達にライブの曲目や英訳が書かれた紙が配られた。

(……なんだ、あれ)

周囲は、一瞬にして。彼女が口を開いた瞬間に、静寂に包まれた。それまで客席で騒いでいた輩も、興味もなさそうに遠くのカウンターで話し込んでいた輩も。この数ヶ月で、彼女の歌はここまでの力を持つようになったのか。誰しもが、あの細い喉から発せられる切なげな歌声に、聞き入っていた。
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