Magic Green!!!本編 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
08.

「ただいま帰りました……ってスティーブンさん、まだ寝てるんですか……?」

昼休みが終わる丁度5分前に事務所に戻ってきたアユは、扉を開けてすぐにソファーからはみ出した足先を見て肩をすくめた。超過労働がたたったんだろうなぁ。お昼ご飯食べてないよね、きっと。キョロキョロと辺りを見回しても、誰かいる気配はない。昼休みは終わってしまったけど、この可哀想な上司のために何か食べられるものを……ということで、アユは給湯室に向かった。

「貴方の出番ですよ、炊飯器先輩!」

最初の2ヶ月で米への恋しさに涙したアユは、今回の渡米の際には必ず炊飯器を持参しようと決めていた。米だけは日本から送ってもらって(やっぱり日本米が一番美味しい)、三食のうちのどれか一食には米を入れることにした。いつもは一人分しか用意しないけど、今日はスティーブンさんの分もあるから……2合で足りるかなぁ。3合にしとこうかな。

「う……」

半分意識を失うように眠りについていたスティーブンは、そのまま勢いよく起き上がった。寝てた! よりによってアユの前で……! かなりダメな所を見せてしまった。そう思いながらブランケットをたたんで……ん?

「これは……」

雪のように白い生地に、緑の蔦のような刺繍。冬用なのだろうか、内側は裏起毛でもふもふしている。アユのローブであった。

「あ、スティーブンさん起きましたか?」

おはようございますー、とのんびり挨拶をしたアユは、大きめの皿になにやら白いものをたくさん乗せてテーブルに運んできた。

「ごめん、すっかり意識がとんでたよ」
「働きすぎですって……お昼ご飯まだですよね、よかったら食べませんか?」

気付けば昼休みも終わっていて、自分が何時間眠っていたのかさえもわからない。アユが運んできた白いものは……あー、なんだっけか。ライスの……

「おにぎりです」
「……? ……ああ! ジャパニーズフードか、ONIGIRI!」
「多めにお米炊いちゃったんで、作りすぎました……」

お口に合うかはわからないんですけど。そう言って照れながら、アユは自らひとつを選んでぱくりと食べた。彼女も、昼休みを全部使ってシャミアニードに顔を出していて、実は昼食をとっていないんだとか。

「……ってことは君、一人で外出したのか?」

寝起きであることも相まって普段より数倍ドスの効いた目でじろりと睨めば、アユは申し訳なさそうに肩を窄めた。外に出てすぐ、シャミアニードの者が迎えに来ていたらしいからとりあえず許してやって、オニギリとやらに伸ばしかけていた手をぴた、と止める。アユはそうか、と一つずつに指をさして説明をはじめた。

「……こっちが味付けサーモンで、こっちが梅です。ここは明太子で、あとの半分は冷蔵庫にある適当な具を詰めました」

どれがいいのやらさっぱりわからない。だって全部同じ色と形なんだ。

「えーと、オススメは?」
「日本ではおにぎりの具には焼き鮭を使うんですけど、なかったので生サーモンをゴマ醤油で味付けしたやつ……これがいいですよ、結構美味しかったです」

手渡された白い三角のオニギリを、もぐ、と口に入れてみた。

「…-あ、美味しい」
「よかった〜! 何も食べないよりはマシですもんね」
「いやいやめちゃくちゃ美味しいじゃないか。アユ、日本で毎日こんなの食べてるのか?」

何がって、米が美味しい。アメリカで米を食べるということはまずないし、あっても芯の入ったパサパサのタイ米ばかり。HLなんかではそれ以前に、人間が口に出来るもの自体が限られてくる。スティーブンは自分が日本に生まれなかったことを一瞬後悔した。

「君って幸せ者だよ、これヘルシーだし」
「アメリカ人からしたら日本食なんて全てヘルシーですよきっと。物足りないくらいかも」

アユは早くも2個目のおにぎりに手を伸ばしながら、にっこり笑った。

「ランチですね」
「え?」
「いえ、さっきスティーブンさんのお誘いを断ったのが気がかりだったので」

そうだった。これは……ランチだし、2人だし、しかもアユが作ったもの。よく考えたら最高のシチュエーションだ! この数十分を有効活用して、より距離を縮めなければ……スティーブンがぐっ、と顔に力を入れた瞬間。バン! と勢いよく扉が開いた。

「ちょえーっす。今年最後の任務終わりましたよーっと」
「あー腹減ったー!! 飯! 飯食いに行こうぜ!」
「昼休みはもうとっくに終わってますよ」
「クソモンキーの中の時計は狂ってんのかもね」

距離を……

「ったくユキトシったら何考えてんのかしら! ちょっとレオっち聞いてよ〜!」
「む、ギルベルト。ジャケットを……」
「かしこまりました。今紅茶を用意させていただきます」

縮めなければ……

「キキッ!」
「あ、ソニック! 食べる? ……お疲れ様です、レオさん。音速猿にお米って大丈夫ですか?」
「いだいいだいK.Kさん離して! ……え? ライス? いいと思うけど……」
「てか何食ってんだチビ」
………

その後、雪崩のように同じタイミングで事務所に戻ってきたメンバーに作りすぎたおにぎりは振る舞われ、結局スティーブンが口に出来たオニギリは味付けサーモンとシーチキンマヨネーズの2個だけだった。
prev next
top