Magic Green!!!本編 | ナノ
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07.

大晦日。

大掃除云々より、ニューイヤーに向けての花火の準備に忙しいHLは、クリスマスの盛り上がりをそのまま横移動させたようにお祭り騒ぎ状態を維持していた。

「あ、もうこんな時間ですよ」

スティーブンと2人で書類仕事をこなしていたアユは、事務所の時計を確認して彼に声をかけた。

「休憩にしませんか? 昨日徹夜されたんなら尚更ですよ」

11時を過ぎていよいよぐったりモードに突入したスティーブンは、「うん」と軽く呟いてそのままソファーになだれ込むように倒れた。給湯室に向かおうとしていたアユは、背後で聞こえたドサッという音にちょっとびっくりして振り返った。

「え! スティーブンさん!?」
「……アユ、ランチ行こう、ランチ」

ソファーの肘掛けに突っ伏したままスティーブンは死んだような声をしぼり出した。年末は毎年こうなんだとは前もって聞いてはいたものの、いつものシャンとしたスティーブン・A・スターフェイズはどこへやら状態の彼の元に駆け寄って、アユはしっかりして下さい、とスティーブンの肩を揺さぶった。

「こんな所で寝たら取れる疲れも取れませんよ!」
「ランチ」
「今日は事務所から出られないんじゃなかったんですか?」
「……友達じゃないか。僕ら友達だろ」
「プライベートだったら尚更だめなんです。今日の昼休みは、私がシャミアニードに行かなければならないので」
「……」

ぐう、と寝息が聞こえてきて、アユは溜息をついた。とりあえずブランケットを……と思ったら、ギルベルトが事務所内の殆どの布類をクリーニングに出した後だったことに気付き、自分のローブを自室から持ってきてかけておいた。

「私のローブなんかで、すみません」

突っ伏した状態で1ミリも動かないスティーブンを起こさないようにそっと残りの書類を片付けて、昼休みになるとすぐにアユは予備のローブを羽織って事務所を後にした。


「……ハインお兄ちゃん、アユです」

HLの某高層ビル……ライブラと似たような立地条件のとある一室に、”シャミアニード”HL支部はあった。アユがここを訪れるのは、”出張”の時だけであり、こんなプライベートな理由でお邪魔したことはなかった。

「やあ、来たね。こっちだよ」

にっこり笑って入口に立っていたハインリヒに案内されて進んだ先には、本やレコードが並ぶお洒落な部屋。中心には、とても大きくて真っ白なグランドピアノがある。

「ミスK.Kに頼まれて、音源を聞きながら練習はしてたんだ。あとは君に合わせるだけだよ」
「正規の3曲はなんとかなると思う。ただ……かかった場合に限るけど、アンコールがとっても心配。歌ったことないもの」
「んー……君の音域なら大丈夫な範囲内だと思うよ。どちらかというと、僕のほうが心配だ」

そう言ってグランドピアノに腰掛け、ポロンと音を鳴らすハインリヒは、普段の数倍は大人びて見える。彼は、明日のライブラで行われるニューイヤーパーティに来賓として参加するのだとか。クラウスとは初対面以来、リーダーと次期リーダー同士でこまめに連絡を取り合っていて、より親しくなっているらしい。

「さあ、昼休みは短いよ。この一回しか合わせられないから、集中しよう」

柔らかいピアノの音色と、少女の繊細で心地いい声が、霧が包む街をのぞむ小さな部屋に響きはじめる。伴奏がある状態は初めてのアユだったが、ハインが鳴らすピアノの音があるだけで世界が広がったような気がして、癖になっていたはずの目を閉じることをせず、気付けばこのゆるやかな雰囲気を楽しむように目を開けて喉を震わせていた。
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