05.
遡って12月中旬の某日。チェインとK.K……アユを除いた主要メンバー女子の2人は、くじでニューイヤーパーティの余興係に抜擢され、事務所のソファーに腰掛けて打ち合わせを行っていた。
「でももう、ネタっていうネタは出し尽くした気がしな〜い?」
「何にも思いつきませんよ……」
何かを計画するとか、仕切るとか。そういうのはクラウスやスティーブン、人狼局の局長なんかの仕事であって、大雑把なこの2人の得意とするものではない。しかもニューイヤーパーティの余興などという比較的やる気の入らない(主催者のクラウスに謝れ)係。2人はしばらく項垂れていた。
「時間は10分程度でいいわよね、どーせ飲んで食っての方がメインなんだし」
「かといってセンスのないものを出す訳にもいきませんよ。どうします?」
考え込む2人以外に、この事務所には誰もいない……と思っていたら、温室の扉が開いた。
「アユさん、見つかりま……あれ」
出てきたのはツェッドだった。どうやらアユに用があったらしく、キョロキョロと彼女の姿を探している。
「アユっちなら、ザップっちと”出張”だけど……なあに、急用?」
「いえ、そういう訳では……」
「ん?何持ってるの?」
チェインが指差した先には、1枚のCD……あ、なんかデジャヴだ。ツェッドがそれを後ろに隠したが、時既に遅し。K.Kにはツカツカと大股で歩み寄られ、チェインには希釈されてあっさりCDを取られてしまった。
「いいわ〜いいネタの香りがプンプンするわ!」
「一応聞くよ。これ、アユに渡して何させるつもりだったの?」
CDにはとあるアニメ映画のお姫様が写っていた。スティーブンの時も恐ろしいほどの迫力に圧倒されて秘密をばらしてしまっていたツェッドは、今回ばかりは話すまいとそっぽを向いた。
「ツェッドっち? 私らちょおっとピリピリしてんのよね? ニューイヤーパーティの余興のことなんだけどぉ……」
「あ、か、風編みとかなら、やりま」
「君は頭良いから、多分わかると思うんだけど」
この女性2人にこの剣幕でここまで迫られてしまえば、折れるのもツェッドだ。アユさん、ごめんなさい。そのうち全員にバラしてしまうかもしれません……
「う、歌ってもらうつもりで……」
「それよー!!」
「決定ですね!!」
目を輝かせたK.Kとチェインが、がっくりとするツェッドの前でハイタッチを繰り返した。
*
そして現在に至る。
「え? ニューイヤーパーティですか?」
「実は……折り入って謝らなければならないことが……」
そこからツェッドは、K.Kとチェインの2人にアユの毎晩温室で歌う習慣をばらしてしまったことや、アユをニューイヤーパーティの余興で歌うように説得しろと言われたこと、途中でアユ自身が入院してしまったため、言い出すタイミングがなかったことなんかを話した。
「本当にすみません……断ることができればよかったんですけど」
「うっ……でもツェッドさんが謝ることじゃないですよ! 10分程度なら、持ち歌を使ってなんとか歌えますし……盛り上がるとは思えませんけど」
アユは勿論、いつもアカペラで歌っている。しかも日本語で、シンプルかつ大人しい曲が多いため、パーティの余興にふさわしいとはどうにも思えなかった。が、仲のいいツェッドの頼み。彼の顔を立てるためにも、アユが首を横に振るわけにはいかなかった。
「盛り上がるのは間違いないですよ。僕が保証します。ただ……その、計画は先に進めておきたいと言われまして。アユさんがよく歌っていて、尚且パーティ向きの歌を3曲、K.Kさんに伝えてしまっているんです……」
「え!な、なんの曲ですか?」
聞いてみれば、確かに曲調が明るめのもので、アユはひとまず安心した。
「大丈夫です、それなら歌えます。ツェッドさんに迷惑かけるわけにはいきませんし……やりますよ、余興」
「どちらかというと、僕がアユさんに迷惑をかけていると思うんですけど……そう言ってくれるならありがたいです。楽しみにしてますね」
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