Magic Green!!!本編 | ナノ
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02.

アユが退院したのは、12月28日。25日の昼過ぎに完全に目を覚ました彼女は、通常なら1週間かかるはずの治療を3日で終わらせてみせた。それを聞いたザップは「どっかの番頭みてぇだな」とぼやいていた。

「本当にお騒がせしました。もう無茶はしません」

事務所の扉を開けてすぐ、アユは深く頭を下げてメンバーに詫びた。

「頭を上げたまえ、アユ。君のロロークのおかげで、今回の戦闘の被害は最小限に抑えられた。勿論、レオナルドの功績でもあるがね」

レオナルドの方はアユより1日早く退院し、早速義眼を使った任務をもらって、HL中を走り回っている真っ最中だ。ザップとツェッドもその任務で外に出ている。

「そうよアユっち〜! もう最っ高にカッコよかったんだからぁ〜」
「私も見てたよ、アユ。どこぞの銀猿とは比べ物にならないくらい強かった」

K.Kとチェインに褒められ続けたアユは素直に照れているようで、スティーブンは彼女が頬を染めて俯いるのをデスクから眺めていた。一度想いを伝えてしまえば、開き直ってまじまじと見つめていられるのだということに気付いたスティーブンは、もう顔を赤くすることもなく、マグの中のコーヒーをすすりながら目を細めてアユの動向を観察していた。

(アタックはするさ。けど……)

やっぱりこの僕を振ったんだ、彼女も気まずさを感じているはず。距離をとろうとするようなら、無闇やたらに近寄るのはやめて様子を見るのも手だな。と脳内で作戦を練っていたスティーブンの元に、当のアユが駆けてきた。

「スティーブンさん、ただいま帰りました」
「あ……あ、おかえり。アユ」

スティーブンはアユの上司であって。一応、面と向かって退院の報告をしておこうということなのだろう。スティーブンはわざとアユと目を合わせず、書類に目を通しているようなフリをした。

「……あの、」
「別に君がどうこう思うことじゃない。当の本人に慰められるのが一番堪えるんだよ、気にしないでくれ」

告白のことを話すのだろうと思い、スティーブンはつらつらと用意していた言葉を並べてみせた。しかし、え、とアユが小さな声を出した事に違和感をおぼえ、顔を上げてみる。

「何の話ですか?」
「……あれ」

嫌な予感がする。あの時確か…彼女は、目を覚ましたばっかりで、またすぐ深い眠りに……

「……アユ、君が一番最初に目を覚ました時、病室にいたのは誰だ?」
「? チェインさんですけど……それがどうかしましたか?」

やっぱりか!! 完全に忘れてるよな、記憶無いよな! 辛い、今すぐこのガラス窓を突き破って身を投げたい……一世一代の大告白だったのに! この子、鈍いどころの騒ぎじゃない、そもそもを覚えてないじゃないか! スティーブンは心の中でのたうち回り、泣きたい気持ちを無理やり押さえ込んで、表情を変えないように尽力した。

「……いや、なんでもない、よ。君は何を言おうとしてたんだ?」
「あ、それは……」

ただでさえ「お友達から」と言われてしまったのに、さらにこの仕打ち。試練などという聞こえのいいものではない。もはや苦行だ。気を落ち着かせて、改めてアユの方を見つめる。

「入院中ずっと考えてたんですけど……やっぱり書類仕事でお手伝いできることがあったら……と、思いまして。いや、あの、そんな何でも出来るわけではないですし、忙しい時だけ呼んでもらえれば……」
「あー……そうか、そうだったな」
「日本にいる時、本気で心配したんですよ。スティーブンさんが無闇に徹夜しなくてもよくなるなら、何でも手伝います」

こう伝える間に、コロコロと表情を変えながら話す少女は、正直可愛くてたまらない。もう一度告白を仕切り直すという手もあるが、恐らく結果は同じ。アユに気まずい思いをさせて、ギクシャクしてしまえば、この関係の早期の進展は望めなくなってしまう。スティーブンは方向転換することにした。

「そうだね……丁度年末年始で忙しい時だから、お願いしようか」
「本当ですか! よかった〜頑張りますね!」
「早速今日から色々教えよう……でもその前に」

スティーブンは立ち上がり、近くにかけてあったジャケットを手に取った。そしていつも通り、にっこり微笑んで一言。

「僕とランチに行こうか、My Friend」
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