Magic Green!!!本編 | ナノ
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12.

『魔力欠乏熱……通称”魔欠熱”じゃ。ロロカリアンは今、アユに近づくことはできまいよ』

受話器の向こうで溜息をついているゲルダ・ディートリッヒに、猛烈な勢いで詫びているのはクラウスである。

「マダム、本当に申し訳ありません。実戦経験の無い彼女に、過度な負担をかけさせてしまいました」
『いや、結構。あの子の力を再確認したイヴになったのう、ラインヘルツ殿よ。魔欠熱が治るまでは、一切の魔力を近づけてはならん……ということで、そちらの方で看病を頼みますぞ』

その名の通り、ロロカリアンが魔力を使い果たした際に発症するのだという”魔欠熱”にかかった者は、熱発により意識を失っている間は一切の魔力を受け付けないらしく、ブラッドベリで魔法使いから隔離されて治療されることになるという。本人の魔力は0に限りなく近くなり、40度を超える熱を薬や時間で治すしかなくなるのだ。

『……何にせよ、意識を取り戻したらまた連絡をいただこう。ラインヘルツ殿、そこまで気落ちすることは無い。アユが生きておるなら十分さね。メリークリスマス』



床も壁も、ベッドも。全て白く塗られたそこに、黒髪の少女が横たわっている。顔を赤くして、うなされるように眉を寄せて苦しんでいる彼女を見ているだけで、こちらも辛くなってくる。
日付をまたいでも、彼女は目を覚まさなかった。数時間前まで、窓からのぞむ霧がかった夜空では無数のサンタクロースがそりに乗って飛び回っていた。今は薄く明るくなり始めた外をちらと見やってから、スティーブンは本日数度目の溜息をついた。もうずっと、眠ることもなく彼女のそばにいる。戦闘後の火消しや誘拐犯の捕獲には、他のメンバーが率先して当たってくれていた。K.Kに無理やり押し込まれる形で病室に入れられ、出てきたら殺すわよと泣きながら言われたが、元よりここにいるつもりだったので大人しく従った。

(……強かった)

彼女の足を引っ張っているのは、もしかしたら自分達の方なのかもしれない。本当は、誰のことも気にせずに目一杯力を使いたいのかもしれない。それを必死で抑えて、あの笑顔を見せていたのかもしれない。考えれば考えるほど、最後に残るのはいつかやってくるかもしれない彼女との別れで。スティーブンは顔を大きな手で覆って、低く唸った。

「番頭」

気付けば病室の入り口に、ザップが立っていた。

「アユは?」
「まだだ……ザップ、お前は帰ってろ」

後片付けご苦労。短く礼を言って、スティーブンはアユの方に向き直った。数日前のザップへの怒りの感情よりも、アユのことを心配する気持ちの方がスティーブンの頭の中の多くを占めていた。今は、このクズのことは少しも考えたくはない。

「わかったかよ」
「……何がだ」
「そのチビは誰かが見といてやらねーとあっさり死んじまうぜ?」
「……だろうな」

ザップの方に目を向けないまま、スティーブンは呟くように答えた。ザップは舌打ちして、少し声を荒らげる。

「アンタはそのままでいーのかよ。こんないつ死ぬかもわかんねー奴に変な虫がわんさかついていくのを、黙って見てんのか?」
「変な虫はお前だろう」

あの日の事務所で、お前がアユに迫ってるを見ていたんだからな、殺すぞという目でスティーブンはザップを睨んだが、彼も一切引き下がる様子はなく、逆に声量を上げた。

「俺はちげーよ! ったく……いい加減本気出せっつーの。それでも色男かよ」
「アユに無闇にベタベタしているクズに言われたくはないな」
「あのなぁ!? まず言っとくと、俺はこのチビのことなんてなーんとも思ってねぇっすよ! アンタ勘違いしてるぜ? 後でそいつかレオにちゃんと聞いてみろ」
「……」
「でも危機感持っただろ? そのままぐずぐずしてたら、どこの馬の骨とも知らねぇ奴にあっさり取られちまうかもな! こんなチビ!」
「……ザップ、お前まさか」

知ってるのか。スティーブンは頭を抱えた。よりによってこのクズに、バレていたとは。

「俺だけじゃねぇっすよ。レオと犬女も気付いてんだろ。逆に気付いてねぇのは旦那と魚類ぐらいだ……あんだけ様子のおかしい番頭を見せられ続けたら、大抵の奴は気付く」

完璧に隠していたつもりだったのに……チェインにまで気付かれているということを知り、スティーブンは呆然とした。

「……”パートナー”はアンタがやれよ。これでまだ何もしねーようなら、」

次は本当に取っちまうぞ。

ザップは刺すような目でスティーブンを睨んでから、病室を出ていった。
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