Magic Green!!!本編 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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11.

「そうこなくっちゃね」

気を高めるアユを満足気に見下ろして、眷属は宙に浮いた。アユがカッと目を見開き、切り風のような突風を起こして眷属を襲う。ロロカリアン……500年に一度の才能を持つ少女と、不死者の戦いが始まった。

「やるじゃねぇか……チビ」

ザップにそう言わせるほど、その後のアユはよく戦った。逃げるように走りながら、風や石を飛ばして相手を挑発し、お目当てのポイントに誘導して大きな一撃を与える。彼女の使う”ロローク”は主に腕から発せられる風剣型のものだ。実戦は初めてだったが、この壁のおかげで牙狩りの存在を気にせずに済んでいるので、本来のロロカリアンとしての力を発揮しているのだろう。

「っはは! さすがは天下のグルズヘリム。その短所さえなければ、第一線で活躍できるはずなのに!」

アユの攻撃を華麗に避けながら、BBが高らかに笑った。それから目を離さないまま、アユは少しかがんで左腕に右手を添え、何やら詠唱を始めた。

「ロロカリアーノ・イヴィー……」

ローブから覗く彼女の左腕に、青い紋章が浮かび上がる。スティーブンは気付けば、彼女の力強い戦闘に、目を奪われていた。普段一切見せることのない顔で、現役牙狩り顔負けの力を見せる小さな少女は、確実に強く、脆く、美しい戦士だった。天賦の才能と呼ばれたそれは、守護魔導にとどまるものではなかったのだ。

「下龍四、星刺し」

左腕が熱を持ったように紅くなり、ぐぐぐ、と手のひらに小さな蒼い龍を宿したアユは、その指先を真っ直ぐ眷属に向けて、光を放った。まばゆい光に目を細めたスティーブンが次に見たのは、下半身を失った血界の眷属だった。

「一瞬で、下半身全てを粉砕……!?」

アユはその直後、左腕を抑えて地に膝をつけた。やはりそれなりの力を使ったのだろう。息を荒くして痛みに耐えるように顔を歪めている。

「……っ」

ギュルルルルと急速再生に入りながら、憔悴したアユの元に飛んだ眷属が、そのまま彼女の首を掴んで透明な壁に押し付けた。

「ごめんね? 少し、馬鹿にしすぎたみたい……とっとと意識を飛ばして、運ばれて頂戴」
「ふ、はは」

息苦しそうに歯を食いしばりながら、アユは不敵にも笑って見せ、破裂音と共に、”最弱の結界”を手放した。黒く染まった髪が、わずかに吹いた風で揺れる。

「しん、か……かく、きん、きょり」

眷属が目を見開いた時にはもう遅く、アユの首を絞めていた左手と、眷属自身の頭部が音を立てて破裂した。

「あ"、あ"! ごむずめめ"ぇ……」

直後に再生を始めたものの、少しよろめいて右手で頭を抑えた眷属を振り払い、アユはクラウスがいる方と正反対の結界の壁へ走った。

「読めました!」

屋上で叫んだのは、レオナルドである。両目から湯気を出し血を滴らせ、苦悶の表情を浮かべている。クラウスがスマホを確認し、身構えた。

「アユ!」

スティーブンが名前を呼んでいる。
アユは残る力を振り絞って、対面へただ走った。眷属が再生を終わらせてアユの方に振り向いたと同時に、ぴた、と壁に両手をつけた彼女が結界を震わせる。そこから剥がれるように、分厚いそれは霧散していった。

「っはは! ごのわだしを馬鹿に……」
「シャドリアジナ・ギルザ・アギラドカルル・イダ・ハルザニダリアイラ……貴方を、密封する」

腰に打ち付けられたのは、眷属を永遠の眠りへと葬る唯一の十字架。名を呼ばれた彼女とは正反対の意味を持つ赤が、注がれていく。

「! クソがぁ……!」
「憎み給え。許し給え。諦め給え……人界を護るために行う我が蛮行を」

ブレングリード流血闘術999式!

久遠棺封縛獄!


全てが終わるのを見届けてから、アユは崩れるように地面に倒れ込んだ。
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