Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
10.

「ネタばらししようか」

音もなく地面に降り立った眷属は、まるで天気の話をするかのように語り出した。

「私はこっちには疎いから……良くしてくれるヒューマーにお願いしてね? あなたの素性はなるべく伏せて、探してもらってたの。私自身も色々頑張ってさぁ……グルズヘリムの結界の波をいじってみたりしたわ」

この1ヶ月、アユの”最弱の結界”が正常に作動しなかったのは、この眷属のせいだったのだ。アユは後ずさり、透明の壁に触れた。分厚いが、集中すれば壊せないこともない。しかし、結界の外には多くの牙狩り。特に、眷属への唯一の対抗手段……クラウスが背後にいる。

「それで捕まればラッキーだったけど。いずれ本人が出てくるだろうと踏んでいたのよ……そうしたら、義眼の少年があなたの姿をして歩いてる! 今度は私本人が出向いて、彼にかかってる”最弱の結界”の元を辿ったわ」

案外あっさり見つかっちゃって、拍子抜けしたけどね。そう言ってヤレヤレと両手をぶらぶらさせているBBを、アユは睨んだ。おそらくエルダークラスではないが、アユの結界を操作し、レオの擬態を見破っているということは、相当の上級種だろう。12月に入った頃から、もうことは始まっていたのだ。

「レオさん、ゆっくりでいいです。諱名が読めたらすぐにクラウスさんに連絡を。直後に壁を壊します」
『アユ! 待て、戦うんじゃない!』

壁越しにスティーブンが叫んだ。アユはちらっと後ろを振り返って微笑み、前に向き直った。

「ひとつ、聞きたいことがあるんですけど」
「なぁに?」
「……私に似てるってだけで誘拐された5人の女の子達は、どこに」

大層つまらない質問だ、と言わんばかりに眷属は口をへの時に曲げて、どうでも良さそうに答えた。

「あ〜……良くしてくれるヒューマーって、人肉密売組織の一派でさぁ……今頃物好き愛好会の腹の中……ってところじゃない?」

アユは目を閉じた。彼女の近くに転がっていた石が震え、栗色の髪を浮かすように、どこからともなく風が吹き始めた。

「……そう」

戦う理由には、十分すぎる。


「旦那! ダメだ、傷ひとつつかねぇ!」

幾度ともなく透明のドームに血法の刃を使って斬りかかっていたザップが、遠くの方で叫んだ。クラウスも拳をぶつけたが、彼の地をも揺るがす力を持ってしても、びくともしない。K.Kも遠くから射撃を続けている。

「アユ……!」

スティーブンは足から鋭い氷を這わせ、壁に向かって何度も突き刺した。が、それでもヒビさえ入らない結界。その中には、ローブをはためかせて怒りに震える少女と、それを楽しそうに見下ろす血界の眷属がいる。

「……レオナルド! 義眼は大丈夫か!」
『……っ、右目は全く使えません。左目が……ヒビ入ってますけど、ギリいけます! 最短で読みます!』

ツェッドによって近くのビルの屋上まで連れてこられたレオナルドが、真下にあるドームを見下ろして目を見開いた。それは既に熱を持っていて、右目からの血が止まらないようだ。

「っあ……! くそっ!」
「レオ君! 落ち着いてください。アユさんは強い魔法使いです。きっと大丈夫ですから! 慎重に、正確に!」

ツェッドは震えるレオナルドの肩を抑えて、下を見やった。アユが珍しく本気で怒っている。いや……集中しているのかもしれない。彼が見下ろすの壁の中には、いつもの優しい目をした彼女は何処へやら、怒りと悔しさを含ませた瞳で真っ直ぐ前を捉えて立つ、戦士の姿があった。
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