Magic Green!!!本編 | ナノ
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08.

12月24日。HLのお祭りモードも最高潮に達し、人間も異界人も、みな踊り狂うように街を練り歩いている。仮にも平日の昼間だというのに、この盛り上がりよう。せめて夜から楽しむムードになってほしかった。

『全員、持ち場にはついたな。これより作戦を決行する』
「うっす」

レオナルドは小さなインカムを耳に装着して、アユの姿になった。ザップとツェッドは少し距離を置いて青ずくめ達を探す。

「レオナルド、異変があってもそのまま流されておけ。なるべく違和感は感じさせない方がいい」
『了解』

スティーブンとアユは、アユの姿のレオナルドが動いているのがよく見える廃ビルの5階から、下を見下ろしている。アユはしゃがみこんで暫く詠唱を続け、ピン! と高い音を立てて”最弱の結界”を張り終えた。

「な、なんとかなりました……」
「よし。じゃあ僕達も移動しようか」

ビルはかなり廃れていて、コンクリート板や雑草が所々に顔を出している。ザクザクと歩きながら、レオナルドの進行方向にそって移動する中で、アユはふと思い出したことを口にした。

「あ、そういえば……すっかり忘れてたんですけど」
「うん?」
「書類仕事……お手伝いする予定だったなーと思って」

ああ……スティーブンは右手で顎をさすって、遠くを見るような顔をした。そうだった、俺としたことが! こんなチャンスを忘れていたなんて……いや、でも。
スティーブンは本命には奥手系男子。押して引いてのバランスが、いまいち掴めていないのだ。いや、正直引きまくっている。取引先との駆け引きは上手い筈なのに、アユを前にするとどうもいけない。実は、今回の作戦で2人で動くという決断を下したのも、相当な覚悟をもってのことだった。下手に自分のダメなところを見せたくないし、アユはもう日本に帰ることもないから、時間はたっぷりあると鷹をくくっている部分もあるのだ。

「うーん……まぁ、本当に危なくなったら声をかけるよ」

遠まわしにNOと言われたのだと思ったアユは、へらりと笑ってその場を取り繕おうとした。

「そうですね! 私も、”出張”頑張らなきゃなぁ〜……最近ドジが多くて、ザップさんに助けてもらってばかりで……」

スティーブンは、ザップ、という言葉にピクリとした。こちらは一切忘れていない。あいつを、帰らぬクズにしなければ。

「……アユ」
「? ……はい、なんですか」
「君はその……ザップといて、楽しかったりするのか?」

実は3日前から気になってはいた。アユは…もしかして、ザップのことが好きだったりするんじゃないのか。

「ザップさんですか!? っえ〜……でも、面白い先輩ですよね。普段はかなり素行不良ですけど、面倒見良いっていうか……」

思わず、周囲の温度を下げてしまった。アユが一瞬身震いしてこちらを振り返り、何か怒らせるようなことを言っただろうかと、びくびくしながらスティーブンを見上げている。

「……ザップは、」
「え……す、スティーブンさんなんか……怖いですよ?どうしたんですか」

相当怖い顔をしていたのだろう。アユは数歩後ずさった。ぐずぐずと込み上げてきたのは、怒りに似た感情。スティーブンはほぼ力任せに、白いローブから少しだけ覗くアユの細い腕を掴んだ。

「ザップは、やめておいた方がいい。あいつは真性クズだし、女性関係は目も当てられないくらいだらしない」
「やめておいた方がいいって……スティーブンさん、何か勘違いしてませんか? は、離してください」

スティーブンの言葉の意味を察知して、アユは少し顔を赤らめた。しかも離せと言われ、彼はつい、語気を荒めてしまった。

「勘違いだったら嬉しいさ。でも悪いな、見てしまったものはしょうがないだろう? ……事務所で、君は」

ザップと。そう云おうとした瞬間、砂利混じりの地面から赤黒い液体が這い出て、アユのローブをぐるりと巻き込んだ。

『スティーブン! 血界の眷属だ!』

インカムからクラウスの声が聞こえたのと同時に、アユに巻き付いた液体が広がって、彼女をすっぽりと包み込んだ。

「……ッ、アユ!」

スティーブンは掴んだままのアユの手を離すまいと握りしめて自分の方に引っ張ろうとしたが、そうなる前にグルル、と気味の悪い音を出して赤黒い液体はアユ諸共消失してしまった。
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