Magic Green!!!本編 | ナノ
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07.

スティーブンは激怒した。必ず、かの度し難いクズのザップを除かなければならぬと決意した。
車の中にスマホが無いことを確認して、家に置いてきたかな、と頭上に"?"を浮かべながらエレベーターから降りたスティーブンは、廊下に出た時にアユの声を聞いた。

「え!? ちょ、ザップさん!? なになになに…」

ザップめ。またアユにちょっかいを出してるのか。彼女はレオナルドじゃないのだから、髪を引っ張ったりローブを引っ張ったりして遊ぶのも程々にしてほしい。というか、一切触らないでほしい。一言二言文句を言ってやろうと思ってドアノブに手をかけたその時。
よりによってあのザップが、あのクズが! アユを壁に追い詰めて、手に壁をついて、なにやら彼女に迫っている。小さなアユは、ザップの背中にすっぽり隠れてしまっていて、スティーブンの方からはどんな顔をしているのかは確認出来ない。

「おい、ザ……」

そう言おうとした瞬間、ザップがあろうことかその左手をアユの頬に添えて、顔を寄せた。スティーブンはあまりの衝撃に、ドアノブに手をかけたまま目を見開いて硬直してしまった。ビキッ、と足元の床が凍りつく。あれは、もしや。

「ひゃ」

ぎりぎり聞こえるくらいの音量でアユが声を出し、スティーブンは完全に凍りついたドアノブを力いっぱい握りしめた。2人がその体勢でいたのはほんの数秒だったが、スティーブンにとっては永遠とも感じられるほどに長いものだった。
怒りとか、憎しみとか、こいつを殺そうとか。
そういった感情は椅子に座ってからも、やってこなかった。ただ、鈍器で頭を殴られたような頭痛に耐えながら仕事を続けた。その日はそれ以降、誰の声も耳に入ってこなかった。
顔面蒼白のまま、車に乗って自宅に帰る途中……じわじわと湧き上がってきたのは、紛れもない”嫉妬”の念だった。あれは、キスじゃないか? いや、キスだ。あの体勢は間違いなくキス。何故? ザップ……あのクズが、実はアユのことが好きで……なるほど、だから”パートナー”の申し出を……
無意識のうちに、クラクションに手をかけてパッパッパーッと鳴らしてしまう程に、スティーブンは混乱していた。よりによって一番厄介そうなクズと、あのアユを奪い合うことになるとは。
いつぞやのバーで、考えいたこと。アユは未知数で……彼女がもう少し大人になったら、どうなる? 恐らく、取り合い奪い合い殺し合いが起きるだろう。そうなる前に、そうなる前に……

………
気付いたら、自宅のあるマンションまでたどり着いていた。途中で色々なところにぶつけたのかもしれない。降りてみると、愛車が少し……いやかなり、擦れていた。エレベーターに乗り込み、カードキーを差し込んで、玄関を開けてバタバタと部屋に入り、そのまま靴も脱がずにソファーに倒れ込んだ。
とりあえず、ザップを殺すのは24日の作戦が終わってからにしよう。その日はそれ以外に何も考えたくなくて、スティーブンはそのまま泥のように眠った。
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