あ、私なんだか覚えてる。

雪子がそう言った。頭を鈍器で殴られたような…というのはつまりこういう感覚なんだろうなと思う。


「え…?」

まじまじと昴の顔をみる雪子。の、顔を驚いた表情でみる昴。

「私なんだかあなたの事は覚えてるような気がするの」
「…俺の?」



クラスメートとの再開を果たし、プリンシパルでもあった雪子を生徒会室に連れてきた。

そしたら生徒会室にいた昴をみるなり「覚えてるような気がする」と言う。


「え、ちょっとなんで雪子は昴を覚えてるんだ?」

記憶は全て無くしたはず。
恋人である僕の事だって覚えていなかったじゃないか。


「はっきりじゃないけど顔を覚えてる…それに懐かしいような感じがする」


懐かしいような感じがする。雪子は、昴をみて懐かしい感じがする?
僕は?
確かに雪子と昴と僕とは初等部からの仲だ。
僕には何も思わなかったくせに、昴には…。


自分の中の今までおさえて見ないようにしていた物が全て出てきそうだ。
それでも見えないふり気づかないふりを続けた。


「…なんで?」

そう聞く事に意味はないかもしれない。雪子の言葉になんて、なんて無い。
それに誰を覚えてようが忘れようが本人の意識とはなんの関係もない。悪気もない。

だから問いても仕方ない。

しかし雪子にかけたその問いにらご丁寧に昴が返してくれた。

「雪子が倒れた時俺が治療してたんだ」
「昴が?」
「あぁ。その時居合わせていたし。何日か病院に通って雪子の目が覚めるまで治療した」

聞いてない。

「え、僕それ聞いてないけど」
「言う必要があったか?」

雪子と昴は別にやましい事をしているわけではない。
それに僕からしたら今の雪子なんて雪子じゃないんだ。

昔みたいに笑ってくれる事が無くなったし僕が好きなケーキの種類を知らない。
隣に立った時に腕を絡めてくる事も無くなって、秀と呼んでくれない。


だからこの感情だって、いらない。
いらないんだけど、

「…そうかい」



僕はそう言って生徒会室を出て行った。




「必要って…」

だけど昴はどうだろう。
言う必要も無いのもしれない。

そんなのどうでもいい。
冷たい昴の言葉なんか今更だ。

だけどただ僕は悔しくて悲しくて惨めだった。

雪子が昴を覚えてるのに僕を覚えていない。

その気持ちに意味は無いのだ。だけど僕の雪子への気持ちはちゃんとした物だから腹が立つんだ。












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