「わあああああ痛くない痛くない!」
「黙れよ恥ずかしい奴だな」






今日はついにホグワーツへ行く日。キャシーや孤児院の友達と別れる時、不思議と涙は出なかった。
夏休みには帰ってくるから。






「だってあんな冊をすり抜けたんだよ!?すごくない!?」
「わかったわかった」


はしゃぐ私に呆れ顔のトム。
9と3/4番線だ。紅色のホグワーツ特急だ。
心臓が高鳴る。

この時代に知っているキャラクターは居ないはずだ。私の原作の記憶はもう曖昧だ。

知っているキャラクターが居ないのは少し寂しいが、構わない。



キョロキョロと周りを見回すと家族と別れを惜しむ子供がたくさんだ。
これには少し寂しくなる。



「なにぼさっとしてるの?早く乗るよ」


隣にいたトムが私をおいて歩き出す。慌ててトムを追うと誰かに派手にぶつかった。

その子が持っていた荷物と私が持っていた荷物がぶつかり大きな音をたてて倒れる。私とその子は倒れた荷物に引っかかり転んだ。



見なくともトムがどんな顔をしているかわかる。



「…った」


私がぶつかったのは同い年であろう女の子。意志の強そうな顔をしている。


「…前を見て歩きなさいよ」


ぶつかった女の子からギロリと睨まれた。


「ご、ごめんなさい」


女の子は立ち上がり着ていた服を軽くはたき、荷物を持つ。そしてスタスタと歩いてどこかに行った。


「ふん。やな女だったな」


トムが先ほどより呆れた顔で近づいてきた。柄にもなく倒れた荷物を起こしてくれた。

しかし、お前が言うかと言ってやりたい。


「怖い子だった…」
「それより早く乗るよ」


私の荷物を持ったままトムはホグワーツ特急に乗り込んだ。私も慌てて、周りに気を付けながらトムを追う。




空いているコンパートメントに入りトムの向かいに座る。
無意識に緊張していたのかぐったりと深く座った。


「膝」
「え?」


トムがポツリと言った。


「膝、怪我してる」
「…あ、本当だ」


トムの視線を辿り右足を見ると血が出ていた。さっき怪我したのだろう。


「わぁ痛そう」
「痛そうって、人事だな」


鼻で笑ったトムは杖を取り出す。何をするのだろうかとぼんやり見つめていたら「エピスキー」とトムが言った。


「…えぴ…?」
「エピスキーだ。応急処置呪文だよ」
「えぇ!?とととトムったらそんな事が出来るの!?すごい!!」


さすが。本当に天才だったんだとしみじみ感じる。


「本で読んで知ってたんだ」


ふふんと笑うトムに感心する。


「天才ですトム・リドルくん」
「まぁね」


傷が治っていく。
すごくすごく驚いた。
今までもトムにいくつか魔法を見せてもらったが、こんなちゃんとした魔法は初めてだ。


「ねぇ、魔法を教えて!」
「え?」


私も杖を取り出し向かいに座っていたトムの隣に移動する。


「私も魔法が使いたいの」
「ホグワーツに入学したら教えてもらえるよ」
「えー、どうせ今暇なんだから良いじゃん」


そう言うとトムもこれからホグワーツまでの長い道のりを想像したらしく「まぁいいよ」と言った。よし。


「じゃあ1年生の教科書に乗ってる呪文から教えてやる」
「おねがいしまーす」


スッと杖を構えたトムは「ウィンガーディアム・レビオーサ」と言ってハンカチを浮かせた。

この杖が将来、とついつい考えてしまったが今はこれからの楽しくなるであろう生活の事を考えた。






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