「疲れたー」
ベンチに座った。買い物を済ませ、あとは特に用事は無い。帰るだけだ。
「だけど、楽しかったなぁ」
「…楽しかった?」
トムも疲れていたのか無言でベンチに座っていたが私の言葉に反応した。
「うん。久しぶりに外で買い物したし魔法いっぱい見れたし。楽しかったよ」
そう言ってトムを見た。
トムは無表情でまばたきを繰り返す。
トムは楽しく無かったんだろうか。
「…まぁ、普段あんな陰気くさい場所に居るからな」
ポツリとトムが呟いた。
それは楽しかったという事なのだろうか。
この世界に来てトム・リドルは私の中でキャラクターから1人の人間へと変わった。
可哀想なトム。そんなトムを救いたいなんて気持ちは無かった。
なんとなく仲良くなって、私にも魔力があったから一緒に買い物に来た。
本屋さんで教科書を一緒に探した。
たくさん教科書を買わなければいけなかったし魔法遣いの本屋だ。教科書を探すのは苦労した。
杖屋さんで杖を選んだ。
トムがこれから学ぶために使う杖。トムがヴォルデモートになり、たくさんの人を殺めるのに使う杖。
制服を仕立てた。
身長が伸びるからとサイズは大きめに作ってもらった。
キラキラとした笑顔では無かったがトムは笑っていた。いつものように人をバカにしたような笑顔ではあったが、どこかいつもの笑顔とは違ったのだ。
今、私が接しているのはトム。
将来ヴォルデモートという最強の闇の魔法遣いになる人物だけれど、そうじゃないんだ。
まだ、彼はたった11歳のトムなんだ。
11歳の彼がヴォルデモートになるのを約束されていたのは、ハリーポッターという本の中。
それを変えてはいけないのか。
今私が生きるここは紙面の世界ではないじゃないか。
「帰ろうかトム」
私の言葉に頷く彼は確かに生きている。
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