「まぁ」
トムの声にいつのまにかうつ向いていた顔をあげた。
「案外、そうじゃないのかもしれないけどね」
顔を上げた先のトムは窓の外に顔を向け、笑っていた。あのトムがこんな笑いかたをするとは。
大丈夫!?どうしたの!?と聞雰囲気でもなく「どういう意味?」と言葉を紡ぎ出した。
「馬鹿はわからなくて良いよ」
「ばっ…」
なんだ。気のせいか。
やっぱりいつものトムではないか。彼のコロコロ変わる表情、態度、雰囲気に振り回されている場合じゃないな。
ふぅ、と息を吐き出し私も窓の外を見た。
「はぁー、疲れるよね長旅」
ホグワーツに着き、ローブを揺らしながら長く広い廊下を歩く。トムと肩を並べながら。
廊下は生徒に溢れており歩きづらい。そんな中嫌な顔一つ見せず歩くトムは流石だと思う。
私なんか無意識のうちに眉間にしわを寄せていた。
(良い顔しぃだなぁ…)
それにしても、今年の夏休みは濃かったな、と。そういう気持ちも含めて息を吐き出すと隣を歩いていたトムが喋りだした。
「何溜め息なんか吐いてるの?」
「別に」
この世界にきてわかった事だが、私は裏表の激しい人間は嫌いだ。嫌いというか苦手だ。
だから元からトム・リドルは嫌いなキャラだったのだろう。
きっといつまでもトムのこの性格に馴れる事はないだろうし、以前のように嫌いではなくなったが好きになれる事もないだろう。
「トムはまだ行かなくていいの?」
そういえば、この生徒でごった返した廊下でトムがまだ私と一緒に居る。
なぜかと思いそう聞くとトムはニコリと笑った。
「ユメコは今までと違って勉強をよくしているし、去年の期末考査の順位は素晴らしかったよね?」
「……馬鹿じゃない人間とは付き合っていて損はないって事?」
わざとらしくやんわり包まれた言葉に、私もわざとらしくやんわり笑って返すと「物分かりが良い奴は好きだよ」とトムが言った。
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