「口止め料って、なんの?」

うさぎを殺した、殺してない。その話題はビリーには悪いがもう時効だろう。今さらする話ではない。その話題を私が皆にするなんてトムは思っているのだろうか。

あのトムが?

それにトムは「殺していない」と言い、私は「信じる」と返した。
この飴の、口止め料の意味は別にあるはずだ。


私が怪訝に思っていると、いつも通り笑ったトムは綺麗な口から言葉を発する。


「ま、それもそうだな。まぁ飴玉は僕の優しさだと思って舐めときなよ」


ニコニコ笑うトムはパッと私から離れた。

なんとなく胸がもやもやするが、とりあえず気にする事はやめて飴玉を口に入れた。










「あー。やっぱり駅は人が多いな」
「帰省ラッシュだね」


ガラガラと荷物が乗ったカートを押す。私達がカートを押す音、たくさんの人が歩く音話す声。騒音の中トムの声は聞こえにくい。だがシカトしたら不機嫌になるので私は必死にトムの話しを聞いていた。


「よし」

無事ホグワーツ特急に乗り、空いているコンパートメントに入った。まだ電車に乗っている人は少ない。皆、家族との別れを惜しんでいるのだろう。


「はぁ、また一年間あそこで過ごすだなんて億劫だよ」
「そうかな。私はホグワーツまぁまぁ好きだよ」
「友達もいないのに?」


こうやって私をからかう時、トムはとても楽しそうに話す。目を輝かせて口角を吊り上げながら。

ただの一人の少年で、いつもの大人ぶった顔も真面目で賢そうな話し方もしない。

この時のトムが私は好きだ。


「いや、いますけど」
「本の虫でガリ勉ミネルバだろ?」
「ちょ、そんな言い方はひどい!ていうかじゃあトムはどうなの」
「僕は友達なんかいないよ」

電車が動き出した。私達が話している間に生徒は電車に乗り、発車の時間になっていたようだ。

さっきまで楽しそうに話していたトムとは一変し、学校でみせる顔になった。
コロコロ表情を変えるやつだな。


「僕はね、友達なんかいないしいらないんだよ。ユメコならよくわかるだろう?
僕は生まれたときから一人だった」


ガタガタと揺れる電車。
坦々と話すトムの目はやはり、いつもの目。いつもの、


「一人…」

トムの言葉を繰り返す。
そうだよと頷く彼は、そうか。一人だったのか。








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