孤児院でもトムとの会話はない。顔を合わせてもトムはまるで私なんか見えていないように無視だ。
キャシーとは話をするが前ほどではない。挨拶とかその程度。
必然的に私は1人だ。
「あれ、」
夏休みも中盤の今日。
1人の私はする事もなく宿題を早く終わらせる事ができた。宿題を早く終わらせた事によりさらに暇になり、孤児院をぶらぶらと歩いていた。
出かける事も出来るが気が進まない。
トムは何をしているんだろうか。
そんな事を考えていると、昨年トムときたあの陰湿な裏庭に来ていた。
ここは昨年と全く変わっていない。
「ユメコだろ」
「え…?」
ぼんやりと暗い庭を眺めていると誰かに声をかけられた。トムではない。そこには知らない同い年くらいの男の子が居た。
「えっと…」
「覚えてないだろうな。僕は君と仲良くはなかったし関わりはなかった」
「あ、うん。ごめん」
「ビリーだよ」
「…ビリー?」
覚えのない名前だ。誰だっけ。
しかし、関わりがないと言ったのは彼の方なになぜ彼は私を覚えているのだろう。
「トムにうさぎを殺されたんだけど。トムと仲が良い君なら覚えてるかなって思ったんだけどな」
「うさぎ…あ」
思い出した。
私がまだ孤児院に来たばかりの時、うさぎが天井から首を吊って死んでいた。もうすっかも忘れていたが、確かあのうさぎはビリーのだった。
「トムとは違うって思ってる?」
なぜ今ビリーがうさぎの話を持ちかけてきたんだろうか。彼の意図が読めずにいると、ビリーは私に問いかけてきた。
「えっと…どういう意味?」
「そのままの意味だよ」
トムとは違う?どういう意味だろうか。
私とトムは違うって、違わないって、どういう意味だろうか。
「一緒だよ。君はここでトムと同じくらい忌み嫌われてる」
全くビリーの言葉の意味がわからず困惑していると私の思考を邪魔するのには充分な言葉をビリーが発した。邪魔といっても、彼は彼が問いかけた質問の答えを出してくれたのだが。
「証拠に、キャシーは君から離れていっただろ?学校の友達なんて言い訳にしかすぎないんだ。
夜や朝はキャシーも孤児院にいるし、友達と毎日孤児院の外で遊ぶなんて有り得ない。気づかなかった?」
かわいそうに。ビリーが無表情でそう言った。その表情はなんだかトムと似ている。
「魔法なんて気味が悪い。お前も学校ではうさぎの殺し方を学んでるの?」
「トムがうさぎを殺した証拠はどこにあるの?!」
次々にビリーから出てくる言葉にいよいよ我慢出来なくなり言い返してしまった。
「は?証拠?」
「証拠。トムは一度もうさぎを殺したって言ってないよ」
「…あれは誰がどう考えてもトムがやったさ。お前はあの時からトムの仲間だったんだな」
私は何を言っているんだろう。ビリーが言う通り、あれは誰が考えてもトムの仕業だ。私だってそう思う。なのに私は何を言っているんだろう。
「いいよもう。ここには僕のうさぎを埋めてるんだ。去年、誰かに掘り返されてたよ。僕は犯人は1人しか考えてなかったけど、どうやら2人も疑うべく人間が出てきたよ。
お前等なんかずっと帰ってこなきゃいいのに」
ビリーは無表情のままそう言って裏庭から去っていった。
私はただ自分がムキになり言った言葉を後悔した。
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