無事本を見つけ、開心術と閉心術の勉強をひっそりと始めた。術が術だけに実践なしでの習得はすごく難しかったが、出来る限りでの少ない実践でコツをつかめば割と簡単だった。
夏休み前までにマスターするのが目的だったが、なんとかいけそうだ。
「レジリメンス」
木の陰からそっと女子生徒の軍団を覗く。杖を女子生徒の1人に向け呟いた。
“―――なんでこんな厚化粧なのかしら。下品だわ。こいつがパパの仕事先の上司の娘なんかじゃ無かったら仲良くなんかしてやらないのに”
厚化粧の女子生徒とはすごくにこやかに話しているのに、これが胸中か。恐ろしい。
私はため息をはいて杖をローブにしまった。
杖がなくても、声に出さなくても魔法を使えるようにならないと。
あぁ、閉心術は1人ではマスターしたかわからない。いいや、どちらも来年まで持ち越そう。今年は頑張った。
自分に甘いな、と感じながら地面に転がる。快晴ではないが太陽が眩しくて目を閉じた。次第に睡魔が襲ってくる。
「相変わらず友達が居ないんだな」
急にした声。遠のきつつあった意識が戻ってきた。
誰かが隣に座り私の額にひんやりとした手が乗せられる。目は開けなくても、誰かなんて声でわかったが。
「…トムが普通に生徒が居る前で私に話しかけてくるなんて珍しいー」
「普通だよ」
「普通じゃないよ。いつも学校では私を避けてる」
「誰がどこで聞いてるかわかんないからそういう事あんまり言うなよ」
「はいはい」
「それに、」
次に続くトムの言葉を待った。
しかし待ったところでトムから言葉は出てこない。
今まで閉じていた目を開きトムをみる。私は寝ていてトムは座っているせいか、逆光で表情はよく見えない。
「…それに?」
待ちきれなくなり催促するもトムは黙ったままだ。おかしいなと感じて体を起こす。額にあったトムの手は自然に退いた。
トムの顔を覗き込むようにして見ると、驚いた。
「ちょ…怒ってる?」
「は?」
トムの瞳に赤い光がチラついている。
これは怒っているサインだ。犬よりわかりやすい。
「怒る?僕が?君のせいで?」
「え?」
「意味わかんないよユメコ。そう、意味わかんない。勉強が出来るようになってもバカはバカのままだな、やっぱり。ユメコみたいなタイプのバカって存在してるだけで腹が立つよ。頭の中がめでたいね。その脳みそ分けてもらいたいくらいだ。
ねぇ僕は君になら気を許したでも思った?避けてるって、いつから君と僕はそんな距離が縮んだの?」
急にキレたトムに呆然とする。私の何がトムの感に障ったんだ。意味がわからないのはトムの方だ。
誰が見てもそう感じるであろう。
そんな意味のわからないトムの話を聞いている最中、フツフツと私も怒りが沸いてきて言い返す言葉はなんにしようかと考えていた。
しかしトムが発した「僕は君になら気を許したでも思った?避けてるって、いつから君と僕はそんな距離が縮んだの?」という言葉に私の気持ちはクールダウンした。
「…ごめん」
ただ一言呟いた。隣でこちらをじっと見ていたトムは顔をしかめる。
さっきまでは散々言っていながらも、無表情だったくせに。
「なに謝ってるの。意味わかんないって思ってるくせに。ご機嫌とり?謝れば許すと思った?」
そう言ったトムは立ち上がり、ローブについた土や草を叩いて去った。
「…いやいや、意味わからないよ」
私の声を聞く相手はもう誰もいないのに、私は1人呟く。
クールダウンした気持ちは再び沸き上がり、立ち上がり、向かう先は決まっていないのに歩き出した。
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