「…で、何か用?」
まさか「成績が良くなった」話題のためだけに呼び止められたとは考え難い。これ以上トムの愚痴に付き合うのも疲れるので早く用を済ませよう。
「用?」
「用があるから呼び止めたんじゃ…」
「あぁ、たまたまユメコを見つけたから呼び止めたんだよ。最近ユメコは成績が良いって話を聞いたから何かあったのか気になっていたしね」
まさかだった。さっき、それは考え難いとしていた理由でトムは私を呼び止められたのだ。
あ、そう。力無く答えると、先ほどまでとは違い優しく笑ったトムは「今から図書館に行くんだけど一緒に来ない?」と誘ってきた。
「授業は…」
「まだ時間あるよ。僕はそんなミスしないね」
よく見たらトムは片腕に大きな本を抱えていた。
「じゃ、行こうかな。暇だし」
「なに?僕は暇つぶしなわけ?」
「トムだってそうでしょ?」
僕は良いんだ。なんて言い出したジャイアンはスタスタと歩き出す。慌てて追いかけるもコンパスが違うので追いつくのに必死になった。
トムはまた背が伸びたようだ。孤児院の時から大きかったが最近トムは急成長している。
私はというと身長がちょいちょい伸びているが、まだ小さい。
「なに借りたの?」
「魔法についての本。バカにはわからないよ」
背丈に合わせるために何度か買い直しているらしいローブ。何着目なのだろうか。靴もきっと新しい。
私はなんだか置いていかれた気分だ。
「魔法?そういえば五年生くらいの内容もわかるって言ってたね」
「今個人的にやってるのは七年生だよ」
「なっ…なねんせい…」
この世界での私は異端だ。本来なら存在しなかった者なのだから。
そんな世界で置いていかれて、1人になったら私はどうなってしまうのだろう。
「バカにはわからないだろ?」
「七年生なんてトムも最早バカだよ…」
「ふん、見苦しいからそういう事言うのやめたら?あ、図書館についたら喋るなよ」
トムは鼻で笑ったあと図書館の扉に手をかけた。
さっきのようにスタスタと入っていくと思っていたら、扉を開けたまま入口で立ち止まった。
「…入らないの?」
私がそう言うとこれでもかと言うほどわざとらしいため息を吐いてジロリとこちらを睨んできた。
「ユメコが入るのを待ってあげてるんだよ。僕には優しさが無いと思ってるのかい?」
驚きに固まっていた私は慌てて足を動かす。
「ありがとう」
トムはいつまでこうして私を待ってくれるのだろう。
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