3年生になる夏休み。寂れた孤児院に私とトムは帰ってきていた。トムは相当苛ついている。


「ねぇ、宿題でわからない所があるから教えて欲しいんだけど」
「どうせ自分で考えもしなかったんだろ?バカはバカらしく努力ぐらいしなよ」
「…努力したけどわからなかったんだよ」


あまりの機嫌の悪さに尻込みする。私は悪くないのに申し訳なくなってくる。
トムはそんな私をみて「じゃあ昼食が終わったら部屋に来て」とだけ言った。


触らぬトムに祟りなし。これ以上トムの機嫌を損ねないように昼食まで出来る範囲で1人宿題を片付ける事にした。



2年生からへ3年生へ。この階段は意外にも大変で、宿題がどっさり出た。
そして私もやっとやっとやっと二次成長に差し掛かったのか初めてローブを買い換えた。

トムはトムで相変わらず学校一頭と顔が良い。身長も相変わらずぐんぐん伸びているし。


「変わっていくなぁ」


宿題を片付けながら呟く。宿題なんか、机に広げているだけで全く手がつかない。

不思議なもので、孤児院ではあれほど仲が良かったキャシーは居ない。
居ないといっても孤児院には居る。ただ私の傍に居ないだけだ。

学校に通ってそっちで仲良くなった友人と遊んでいるようだ。それを咎めるつもりはない。
私だってこの世界にきて、前世の友人や家族を思い出す事はもうほとんど無いのだから。人間なんてこんなものなのだろう。


こうやって変わっていくんだ。








「トム」

昼食も終わり歯を磨いて部屋に戻り宿題をまとめる。決して少なくない宿題を抱え、トムの部屋の前まで行き扉を三回ノック。

しかしノックの返事はない。もう一度ノックをしても無反応。
入って欲しくなければ入るなと返事をするだろう。約束しといて「入るな」はあんまりだが。


居ないのかな、そう考えてそろそろとドアを開ける。


案の定部屋には誰も居ない。私と同じ家具なのにどこか寂しい部屋だ。
カーテンの色も形も、部屋のある方角まで一緒なのになんでこんなに寂しいのだろう。部屋の主が居ないからとか、そういうのではない。


「…まだ居ないのかな」


歯を磨いていりのか。トイレなのか。
すぐに帰ってくるだろう。そう結論つけて宿題は学習机の上に置かせてもらい、ベッドに腰掛けた。

ギシリと軋む古いベッドには一冊の本が置いてあった。難しそうな分厚い本。黒い革の表紙と背表紙に銀文字のタイトル。タイトルさえ読めない。


「バカにはわからない…か」


2年生の時トムに言われた言葉を思い出す。なんだか悔しくなってきた。このままでは負けた気分なので本を膝の上に置き、表紙をめくる。


「………だめだ」


私は英語があまり読めない。ペラペラとこうやって喋れているのに、読めないのだ。

全く読めないわけではないのだが、いまいち翻訳機能を使って長い英文を訳したような。そんな感じで頭に入ってくる。
暇潰しで本を読んだりするが無駄に頭をつかいひたすらに疲れる。

だから成績が悪いのだ、教科書が読めないから。教科書が読めないとやる気も失せる。


英語がスラスラ読めるようになる本か魔法はないかと思ったが、英語を母国語とする国にそんな本や魔法はないだろう。


「なになに?人…仕様を禁じる……許されない…」


読んでいくと次第に本の内容がわかってきた。

これは許されざる呪いだ。
原作の物語終盤にはいろんな人がばんばん使っていたが、人に仕様しただけでアズカバン送りというあの呪文。

これはそれについて書かれている本だ。詳しくは読解できないのでわからないが、使い方や効果等が書かれているようだ。


トムは2年生で7年生の魔法を勉強していた。許されざる呪いなんか、既に簡単に使ってしまうだろうか。


ゾッとした。


寂しい部屋にもこの本にも、トムにも。






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