「トム、その人…」




長い休暇が終わりホグワーツに着いた。大広間に行くにはまだ早いので廊下でトムと話している時にトムは声をかけられた。
誰だろうかと見ると、スリザリンカラーのネクタイをしたふくよかな男子生徒だった。


「確かハッフルパフの…」


男子生徒はそう言って私を見る。


休暇中に「君は頭が悪いという事で有名だよ」とトムに言われた。

この男子生徒をみる限り、どうやらそれは本当らしい。男子生徒はまるで汚い物でも見ているかのような顔をしていた。


「…あぁ、休暇前の魔法薬学の授業で彼女が怪我して僕が医務室まで連れて行っただろ?それで意気投合してね。
面白い発想をしているんだよ彼女」


ニコニコ笑いながらペラペラと嘘をつくトムを唖然として見つめる。よくもまぁこんな嘘が簡単に出てくるもんだ、と半ば呆れていると「なぁ、ユメコ」と同意を求められた。



「え、うん…」
「そうか。トムが珍しく女子と居たからビックリしたよ。しかもハッフルパフのあのアリカワと。
トムは誰とも仲良く出来るんだな、すごいよ」


―――これがスリザリンか。本人を前にしてそういう事を言えるとは。
私だけでなくトムにも失礼なのではないか。

チラリとトムを見たら笑顔のままだった。


「寮や成績で決めつけるのは良くないからね。じゃあ、僕達はちょっと失礼するよ」


トムはそのまま笑顔を絶やさず私の腕を掴み「行こうか」と言いグイグイと引っ張り歩き出す。

大広間にまだ行かなくて良いのかと気にしていると人気のない廊下に連れてこられた。


「ふん。たいして身分も頭も顔もよくないくせに何だあの態度は。食う事しか頭にない豚が」


さっきとは打って変わった態度で舌打ちをしそう言う。


「…本人に言いなよ。友達でしょ?」
「友達ぃ?馬鹿だな相変わらず。あんな奴が友達だなんて…そんなの、それこそ誰とでも仲良く出来るすごい奴だ」


豹変ぶりに開いた口を塞げずに居ると「あー去年まではこうして愚痴を言う相手が居なかったから困ったよ」と言い出した。


「言ってた事と矛盾しすぎ…それに猫被りすぎ」
「良い奴ぶってた方が生きていくのは楽だ。
顔と頭だけじゃなくて性格も良いなんて完璧だろ?人間は完璧な奴を信じて好むんだ。ちょっと仮面を被るだけで周りは僕を信じる。僕に寄ってくる。なんて生きやすい簡単な世界なんだ。
自分から生きにくい世界をつくるなんて馬鹿だろ」


トムは先ほどとは違う笑みで言い切った。

こんな発想をするトムを最早尊敬する。ーいつまで可哀相な人なのだろうかと感じていると「そろそろ大広間に行くぞ」と言われた。


「…やっぱりトムって損してる」
「僕のどこが損してる?」
「全部だよ。私はあんなトム好きじゃないなー」



そう言うとトムは笑った。
1年間トムは何を思って生きてきたのだろうか。






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