「ハッフルパフ!」


帽子が叫んだ。私はハッフルパフなのか。妥当だ。

ハッフルパフのテーブルに向かうと優しそうな先輩が「英語喋れる?」とゆっくりとした言葉で話しかけてきた。なんて優しいんだ。


「喋れます」
「あぁ、良かった」


そう言うと周りの先輩や同じ歳の子が話しかけてくる。
校長先生の挨拶があり楽しく食事をしているとトムが気になった。スリザリンのテーブルに目をやるも、トムを見つけられない。

少し、悲しくなった。















その日から私はトムと話す事はなくなった。まずスリザリンとハッフルパフは授業があまり被らない。
廊下でトムとすれ違っても目を合わせる程度だ。最近のトムは目も合わせてくれないが。


ホグワーツでもトムと笑いながら毎日を送ると思っていた。寮が離れても仲良くしてくれるとトムは言っていたし。

だが、実際はこうだ。現実なんてこんなものか。
いつまでも寂しがるわけにはいかない。







「あなたどうして…!!」


1年生もそろそろ終わる頃。私の隣に座っていたミネルバ・マクゴナガルは顔を赤くして怒鳴った。普段クールだから珍しいなと思いながらぼんやりとその顔を眺める。

魔法薬学の授業は全寮合同。ハリー達の世代でもそうだったかは覚えていないが、今の時代は全寮合同だ。

そんな魔法薬学の授業で珍しくミネルバ・マクゴナガルとペアになり、何とかっていう薬品を作っていた。

全教科において私の成績は悪い。それを知っているミネルバ・マクゴナガルは私とのペアを嫌がっていたが仕方ない。

わからないなら手は出さないでねと言っていたミネルバ・マクゴナガルの言葉をすっかり忘れて大鍋にナメクジをぶち込んだ。
すると爆発したのだ。


「手は出さないでって言ったでしょ?!」
「う…ごめんなさい…」


担当教授が慌ててこちらに駆け寄る。
スネイプ先生だったら150点は減点だっただろう。


「ミスアリカワ、ミスマクゴナガル…怪我は?」
「私は平気です。アリカワは薬品を浴びて…」

浴びたとは大袈裟だ。右足にびっちょりと薬品がかかったけれど。
ローブがジュウジュウと溶けている。

ナメクジ、侮れない。


「医務室に連れて行かなければいけませんね。私はここの片付けをしますから…もう既に薬品を作り終わっている人はいませんか?」


教授がそう言うと教室の端から「はい」という声がした。


「僕はもう作り終わってます」
「さすがですねミスターリドル。ミスアリカワを医務室に連れていってくれますか?」


久しぶりに見たトムは私が見たこともないような笑顔を教授に見せて「はい」と頷いた。







「歩けるとか不死身だな」


静かな広い廊下を2人で歩く。


「うん。不死身だよ」


私は不死身だ。前世(になるのだろうか)では死んでもおかしくない状況にありながら何年も生きているし。

体が強いのか運が良いのか。たぶん運だと自分では思っている。

なんて1人で考えているとトムがこちらを見た。


「なんで僕を無視するの?」
「は?」


その顔は眉間にシワを寄せ、怒っているらしい。ムスッとした表情も麗しい。


「廊下ですれ違っても無視してただろ」
「はぁ?そっちが無視してたんじゃ…」
「違う。君が無視してた」


いきなり何を言い出す。怪訝にトムを見ていると大きな大きなため息をはいた。


「君はやっぱり僕がいないとダメだね」
「は?」
「今回も大鍋を爆発させるし。あんな簡単な調合のどこに爆発させるような要素があったんだか…マクゴナガルが可哀想だ。確か彼女は頭が良かった。
あと、君は全教科成績が悪いだろ?やっぱり成績不良で退学さ。
ハッフルパフもこんな馬鹿が入って可哀想すぎる」


たしかに退学させられてもおかしくない程に私の成績は悪い。頭の出来が悪いので減点もされるしハッフルパフは確かに可哀想。

これはトムがまぁ正論だな、と項垂れて聞いていると「君もスリザリンなら良かったのに」と、トムが言う。


「…スリザリン」
「そしたら、」


そこまで言ってトムは口を閉ざす。
何を言おうとしたのだろうか。気になるが、なんとなく聞けなかった。



医務室までの道のりはお互いが知らない約1年間の事を話した。






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