今日は文化祭二日目。

楽しみがあるせいかいつもよりちょっと早起きして、未だに見慣れない自分の制服姿を姿見で確認。

ネクタイを締めると気も引き締まる。よし、と無意識に呟き部屋を出た。






「うふふ」
「何よ……気持ち悪い」


静音ちゃんと技術系の喫茶店に来ている。
技術系代表であり生徒会執行部である静音ちゃんは非常に忙しく、文化祭中は一緒に居れないと思っていた。が、今日は少し暇があるからとお茶に誘ってくれたのだ。あの静音ちゃんが。

あの静音ちゃんが、私の為に時間を割いて、しかもお茶に誘ってくれた!!
二つ返事で無い尻尾を振った。

時間にすれば二時間しか一緒にお茶は出来ないらしいが、ワガママは言わない。


「だって静音ちゃんと居れて嬉しいんだもーん」
「……まあ、春希がそう言ってくれるなら誘ったかいはあるから良いわ」
「ていうか技術系の子達って改めてすごいよねー。いろいろ出来ちゃって、羨ましい」


この喫茶店に来るまでもユニークな発明品やメカの即売ショーなど、とにかく素晴らしい物で技術系エリアは溢れていた。


「春希は特力は手伝わないの?」
「うん。昨日チラッと行ったけど、準備なーんにも手伝ってもない私が入っても余計迷惑でしょうからねえ」
「……そう」


そこまで話して静音ちゃんは紅茶を一口。頼んでいたケーキはまだこない。


「春希は、」
「ん?」


周りは騒がしいのにティーカップとソーサーとがあたる音がはっきりと聞こえた。
近くのテーブルの女の子達がとても楽しそうにお喋りをしている。


「私とケーキを食べる前に、会ってちゃんと話さなきゃいけない人が居るんじゃないの?」
「……んー」
「あ、ケーキきたわね。食べましょう」


可愛いウエイトレス姿の初等部の女の子がケーキを運んできた。お店は賑わっており、忙しいのだろう。結構待たされた。

コンニチワ!と挨拶するケーキを容赦なく食べる静音ちゃん。


どういう意味だろう。
静音ちゃんの言葉の意味を少し考えたが、きっとそういう意味だろう。








「昴はいつも春希の心配をしていたよ」
秀の言葉に笑おうとしたが、その前に顔が熱をもつのが自分でもわかった。そんな私をみて秀は笑う。


静音ちゃんとの楽しいティータイムも終わり、一人でそのままカフェにぼんやり座っていた。
また部屋に帰ろうか、それとも会いにいこうか。そんな事を考えていると秀に会ったのだ。見回り中らしい。


「恋する乙女だね」
「からかわないでよ……」


刺すぞ、と秀を睨みながら自分の顔を冷まそうと手でパタパタと仰ぐ。あまり意味はない行為ではあるが、何もせずに居 るのはなんというか、居心地が悪いというか。


「ま、僕には関係ないんだけど」
「からかう為だけに私に会いにきたの?」
「いやいや、わざわざこのクソ忙しい中春希に会いに来るわけがないだろう?
一人でカフェにぼんやり座ってる悲しい女の子を見つけちゃったから、慰めてあげようと思ったらたまたま春希だったわけ」


ぺらぺらと喋る秀は口では疲れた疲れたと愚痴を漏らしているが、何だかんだ元気なようだ。

久しぶりにゆっくり話す秀は以前と何も変わっていない様子で安心した。


「ところで何か面白い話題ない?」
「普通そういうのは話しかけてきた秀一くんが用意するもんじゃないんですか?一人ぼっちの春希ちゃんをしっかり慰めてくださーい」
「……まったく、何も変わっちゃいないね」


秀は疲れたなあと頬杖をつき、目だけをキョロキョロと動かす。

すぐ近くのテーブルについていた女の子達がこちらをチラチラと見ている。それにつられるように他のテーブルの子達もこちらを見ながらヒソヒソ話を始めた 。

人気者なんだろうな、秀は。



秀と静音ちゃんの話によると、高等部執行部生は文化祭での仕事がとにかく忙しいらしい。

私は帰ってきたばかりで今回の文化祭のメンバーからは外れているが、始まる前はあらゆる出し物や模擬店の安全面の確認。確認に必要な同意書等の書類の制作。講堂等の貸し出し時間の配分を計算し、貸し出し希望者への連絡。時間配分に不満を言われたなら始めから練り直し再び報告。教師達との会議会議。各能力別クラスの予算を計算。
その他諸々をこなしながらも開・閉会式の花火やパレード、挨拶の準備。

そうすると寝る間もなく始まった文化祭。

開会式が終わり、やっと解放されるかと思いきや文化祭中は主に見回り。各自分達のクラスの出し物への参加。一日が終わると報告会に明日の準備。

とにかく忙しい。らしい。


聞くだけでげんなりする仕事量。
だるそうな秀を見てキャッキャと騒ぐ女の子達に本人は気付いているだろうが、気付いていないふりだろう。

元気な時ならにっこりとスマイルサービスくらいしそうな物だもんな。



「……ていうか私も、邪魔?」


秀をみて、ふと疑問が過った。
向こうから私の元にやってきた訳だが、一人で息抜きをしたいのではないだろうか。気を利かせてこの場を離れるべきか。


「いや全然。ただちょっと耳障りなだけ」


眠そうな目を細めてふふふと笑った。


「でた、天の邪鬼。素直になりなさいよ」
「天の邪鬼だって?僕はいつも素直だよ正直だよ。君はよく知ってると思うんだけどなぁ」


含み笑いはそのままに綺麗な顔で秀はそう言う。
そうだ、こいつはこういう人間だ。

初めて会った時は喧嘩ばかりしていた。
今でこそ「3人でいつも」と言えるが、出会ったばかりの時は喧嘩喧嘩喧嘩。当時はかなり大人しかった私が変わったのはこいつ等のせいなのだ。

今となってはその事には非常に感謝しているが。


あのままだったらどうなっていたのだろう、と、たまに思うけれど、野暮なのだろう。その考えは。

ぐっと背伸びをした。






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