めんどくさくてたまらない文化祭が始まった。
昔から学校行事は嫌いだし苦手だが、今年は特に。というか、準備に一切参加せず学校行事を楽しめというのも無理な話。
文化祭の準備関係での特別な時間割で、私はまだ本格的に学校生活が始まってはいない。能力別クラスにもまともな授業にも出ていない。
とりあえず先生と一対一での特別授業に明け暮れる毎日。
空白期間が長いので、授業について行けるようにと考慮をしてくれたらしく。文化祭を前にしてわいわいガヤガヤと浮き足立つ生徒をよそ目に、勉強勉強勉強
先生方も準備期間の忙しい中、青クマ作りながら私のためだけに授業をしてくれていた。
そのお互いの苦労も、最後のテストで私が素晴らしい結果を出せばまだ報われたのだろうに。他人事なのは、お察しな結果だったからだ。
これが文化祭前日の、昨日までの話。
とりあえず今の気持ちは、今日の開会式がめんどくさくてたまらない。
朝から豪華な食事を胃に流し込み、重い足取りで寮を出た。
既に文化祭ムード一色の校内は、朝もそこそこ早い時間だというのに生徒の姿が見える。駆け回る初等部生の笑い声。
とても楽しそうだ。良かったね。と、知った顔が居るわけでもないけれど心の中で呟いてみた。
帰ってきて初めて訪れる生徒会室。ドアノブに手をかけたまま固まる。ここから私の長い長い一日が始まるのか。
ドアの前で憂鬱になっていると、そっと肩に何かが触れた。人の手だ。
一瞬体が強張るが、すぐに振り返る。
「あ、ごめんね。驚かせちゃった?」
そこにはふんわりと笑う美形の青年が居た。
「ドアの前に立ち止まってたら邪魔だよ?春希ちゃん?」
昔から美少年美少年と言われてきた彼だが、まさかここまでの成長を遂げているとは。
「あれ、久しぶりに会ったのに無反応?」
小首を傾げながらクスクス、いや、ニヤニヤと口元を歪ませる彼は、
「えーと、どちら様でしょうか〜?」
「ははは、面白い」
櫻野秀一。
秀とは、秀が学園にやってきた時からの付き合い。
「面白くないよ、誰だよー何でそんな背が伸びてるのよ」
「春希は相変わらずだね」
「どういう意味?」
「別に?」
喋りながら秀が扉を開けた。
それでもぼんやりと立ったままでいると秀に背中を押され、無理矢理中に入れられる。中はガヤガヤと騒がしい。
「昴ー」
側に立っていた秀が、騒がしい室内でお目当ての人物にも声が届くように張った声を出した。
勿論お目当ての人物、今井昴に秀の声は聞こえたようで。奥の方から昴が現れた。
「あ、」
そんな昴は私を見るなり「あ、」と声を上げて静止。
そんな昴にこっちがどう反応したらいいのかわからない。
いつもの仏頂面はそのままで、何を考えているかはまるでわからない。
もっとこう、なにか分かりやすい反応を示してほしい。
「久しぶりだね三人一緒なの」
秀が口を開いた。
何とも言えない空気は、沈黙を破られた事により穏やかになる。
所詮幼馴染みというやつだ。学園に三歳から居る私、五歳から居る昴、六歳から居る秀。
思えばもう随分長い付き合い。
「春希もさー帰ってくるなら言えば良いのに。まったく酷いよね」
「ごめんなさいねー急だったの」
昨日静音ちゃんから聞いてはいたが秀はいつの間にか学園総代表という地位に居る。
中等部の男の子が「代表!」なんて言いながら秀に駆け寄るのを見て、本当なんだと感心した。
その男の子に「あ、それはね」なんて言いながら向こうに行ってしまった秀の背中をぼんやりと見つめた。
「…体調はもう良いのか」
昴が口を開く。
「うん、良いよー。ばっちり!
…とまではいかないけど、今は本当に大丈夫」
「そうか」
なら良かったな、なんて短い会話をしているとまた中等部の男の子がきた。次はさっきとは違うおかっぱヘアの男の子。
昴はその男の子にとてもなつかれているようだ。誰だこいつ、という心の声をおかっぱ男子のその目付きから感じる。
邪魔しちゃ悪い。そう思い昴に背を向け、居もしない知った顔の子を探した。
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「疲れたね!」
「そう?座ってただけじゃない」
「その座ってるだけが疲れるんだよー」
あの後開会式の会場に移動し、今やっと長い長い開会式が終わった。
あーっと声をあげながら伸びをする。あくびも。
静音ちゃんにみっともないと腹を叩かれ姿勢を正した。
「静音ちゃんはこれから何するの?」
「能力別クラスの手伝いよ」
「そっかあ」
じゃあこれから一人だ。
今さらのこのこ能力別クラスに向かうのもなんだからなあ。
一人かとしょんぼりしている私を尻目に、静音ちゃんは「じゃあ」と片手をあげた。私も片手をあげ去り行く静音ちゃんの後ろ姿を見送る。
ふぅと息を吐き出し、仕方がない。と、のこのこと私も歩き出した。
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