「あー、そんな事もあったね」


ふっかふかのカーペットの上に三人円になりお菓子を囲って座る。


それにしても、もう十三年の付き合い。話せばいろいろな話題が出てくる。
昔は喧嘩ばかりしていた、とか。届かぬ友情の叫び、とか。


「意外に早いよね十三年って」


いろいろな事があった。出会いがあり別れがあり。決して平凡な十三年間ではなかった。
この学園に居られるのもあと二年だ。


「そうだね。残りの二年もあっという間だよ、きっと」


チラリと秀が昴を見た。
秀の視線に気づいた昴が、なんだよとジト目で睨み返す。別に、と含み笑いを浮かべた秀。二人は再びちょっとした口論を始めたい。今日はえらく仲良しだ。

そんな二人を見ていると胸が苦しくなる。

私の、十三年間。一番近くに居てくれた二人で、もう限界だなと感じた。


変わらなければいけないのだ。
それは決して一人では無理な事。静音ちゃんだけを頼りにするのも違う。

本当は十二年前に言っておかないといけなかったのだ。それが無理だったのは私の勇気の無さ。弱さ故だろう。


(…でも)


まだ、だ。私にはまだその準備はできていない。
これから先、言える日がくるのだろうか。

そこまで考えて頭を振った。
深く考えてはダメだ。今はまだ言えないのだから、考え一人辛気くさくなってはいけない。タイミングを待つんだ。

いつの間にか俯いていた顔をあげ、言い合いをしている二人を眺める。
何の話しかもわからないのでそのまま眺めているとドアの方から小さな音がした。
控えめな音。

まだ二人はメガネだのカマ顔だの言っており、音には気付いていない。
いや、私の気のせいか?

そう思うがまたすぐに、今度は先程より強めにドアを叩く音がした。流石に二人も気付いたのか言い合いを止めドアに目を向けた。


「…こんな深夜に誰だろう」


秀がそう呟くと昴は立ち上がりドアに向かう。その様子を見て、ちょっと待てと慌てて昴を引き留めた。


「なんだ」
「いやいや、私がいたらマズイでしょ」


こんな深夜に男子の寮鑑室に女子の私がいたら、訪問者はビックリだ。時間帯を考えると有り得ないがもし教師だった場合、どう なるか。


「…じゃあ、そこに居ろ」


昴が長い指を伸ばす。指さした先はトイレ。
信じられない、流石ハマグリ野郎だ。

昴がトイレを指さしたと同時に秀が吹き出す。悠長にルームチェアに腰かけ「臭くはないよ」なんて言う秀は何なんだろう。


何か言う時間もないので乱暴にトイレに入り、洋式トイレの蓋を閉め、蓋の上に座る。


「はぁ」


膝の上に腕を組み額をのせる。左手首に出きたばかりの新しい傷は見ないふりをして、目をつむった。






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